性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「お前ら、今日の給料無しな…」

 「「え…」」

 業務終了後、礼二と類は光から呼び出しを食らうと、パワハラまがいな言葉を突きつけられる。

 「な、なんで俺もなんだよ!!」

 礼二は不満そうに声を荒げると、光はその数十倍不機嫌な表情で指を真横へと引いた。

 「んぐっ!!」

 「お前馬鹿なの?、もう一生何も喋れなくなりたいの?」

 光の脅しともとれる発言に、礼二は首を横に振る。どうやら再び喋れなくなる術をかけられたようだ。

 「ひ、光さん…悪いのは私ですから…」

 自分のことをかばってくれた礼二を類は慌てて擁護する。すると、光はとても分かりやすくため息を吐いた。

 「そもそも、今回の一連の原因はケーキに毛髪が混入していた件にある…。礼二、心当たりは?」

 光はそう言って、再び指を真横に引くと礼二の口を解放する。

 「だから、んな心当たりねぇって!ってか類、その髪の毛って長いのだろ?俺、髪の毛短ぇし…」
 
 礼二はどこか、不貞腐れた様に呟く。

 「た、確かに長い女性の毛髪でした!なので…、多分私のものだと…」

 類はあの時指摘された毛髪の長さを思い出す。確か長さは二十センチくらいで、茶色い色をしていた。

 「あれ…」

 その時、ふと類の中で何かの違和感を感じる。

 「そ、そういえば…、あの髪の毛…少し茶色だったような…」

 そう。確かにあれば茶色い色をしていた。それはシフォンケーキに添えられたクリームが白色であったから余計に印象に残っている。

 類の発言に光は何か合点が言ったのか、「してやられた」といった様子で目頭を押さえた。

 「どうしたんですか…?」

 類は何かを理解した光の態度に疑問符を浮かべる。

 「多分…、あの女達の自作自演。外部から持ち込んだ毛髪を利用してお前を辞めさす算段だったんだ…」

 「な、なんでそんなこと…」

 類は光の言葉にわかりやすくショックを受ける。

 「んな、顔すんなよ…。原因は多分俺…」

 まるで、すべてを悟った様子の光は再び不愉快そうに顔を顰めると、右手に持っていたペンをくるくると回す。

 「しゃあねぇな…、さっき言った話は無しにしてやる。その代わり、今度何か問題があったらすぐに俺に報告しろ」

 「はあ?、最初の頃と話が違ぇじゃねぇか!今まで店の問題ごとは全部俺がー」

 「礼二」

 光は話を遮るように、酷く低い声色で礼二の名前を呼んだ。

 「…んだよ」

 まるで、これ以上余計なことを喋るなと言いたげな光に礼二は小さく抵抗して見せる。

 「確かに、今まで通り問題ごとはお前に任せる。ただ、こいつが絡む場合…話は別だ」
 
 「…」

 「わかったな、類が起こした問題は全て俺が対応する。何、そっちの方がお前も楽だろ?こいつに来るクレームは大体俺が絡んでることが多いからさ…」

 光はそこまで話すと類を見て優しく微笑んだ。



 (なんか私…優しくされてる?)
 
< 76 / 105 >

この作品をシェア

pagetop