性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第十三章【光と堂上と嫌な男】
 とある、山奥に位置する洋館前ー。

 「後は、あの性悪陰陽師と女が来るんやったな?」

 二ノ宮翼≪にのみや つばさ≫は興味なさげにそう呟くと、落ちていた小石を拾い、自身が連れてきた憑かれ人目掛けてそれを投げつける。

 「ああ、南雲類さん。くれぐれも丁重に扱ってくれよ?彼女は光の婚約者だから…」

 堂上の言葉に二ノ宮は「うえっ」と分かりやすく嫌悪感を示す。

 「なんや、あいつ。凝りもせずに、また婚約者なんかつくってるんか」

 二ノ宮は石を投げながら、眉を顰める。

 「仕方ないだろ…?、彼はまだ元帥に昇格出来ないんだ…。ああでもしなきゃ因縁の父親と再会も出来ないんだから」

 堂上はどこか小馬鹿にしたようにそう呟くと、憑かれ人に当たりそうな寸前で石ころの軌道を変えてやる。

 「なんや、せっかくブルやったのに…」

 「人を的にするのは、いただけないな」

 「お前かて、昔はこれでようさん遊んでたやん…」

 二ノ宮は少し不満気に、堂上を睨みつけると「そうでしたか?」と涼し気な反応が返ってくる。

 「せやけど、さすがに遅ない?僕もう待ちくたびれたわ」

 二ノ宮は大きな切り株に背中を預けると、今度は大きく欠伸をした。

 「おや、眠るんですか?」

 「寝る」

 「ですが、もう居らしたみたいですよ?」

 堂上はふと聞き慣れたエンジン音に耳を澄ませると、足下に落ちていた小石を拾い上げる。

 「さて、今日は当たるでしょうか…」

 堂上の意味深な言葉に二ノ宮は小さく首を傾げる。

 「二ノ宮君、的当てゲームというのはね、こうやって楽しむんですよ?」

 すると、堂上は野球のフォームを真似て大きく振りかぶった。

 堂上から放たれた小石は恐ろしい速度で一直線に飛んでいくと、あっという間にその姿を消した。

 二ノ宮は少し驚いた表情で小石の行方を見つめる。

 もし常人にあれだけの速度の石がぶつかったら確実に身体を貫通するだろう。

 しかし、そんな二ノ宮の心配を他所に堂上は微笑んでいる。

 「さて、二ノ宮君。今から一ミリでも動くと死ぬよ?」

 「?」

 突然の死刑宣告に二ノ宮は小首を傾げる。すると、次の瞬間、
 
 堂上が投げた小石が、ものすごい速度で二ノ宮の耳元スレスレに弾き返された。

 「は?」

 突然、耳元で弾けた音に二ノ宮は唖然とする。確か小石を投げたのはつい今し方のことであるのに、それが恐るべき速さと恐るべきコントロール力で元の場所に戻ってきたのだ。

 「ハハハッ…流石だ。だが、コントロール力は少し鈍ったかな…」

 堂上はどこか、満足気に微笑むと遠巻きに現れた二人組を見据える。


 「土御門 光」


 (やはり、君を昇格させる訳にはいかない様だ…)
 
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