性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 いつかの自分が放った言葉に光は、少し後悔する。

 「…」

 「だから、私じゃ駄目です…。あなたが口説くべき相手は私ではありません…」

 「類…」

 「光さん、言いましたよね?お前は所詮、囮としてしか利用価値がないと…」

 類はそう言うと寂しそうに微笑む。

 「だったら、私じゃ駄目です…駄目ですよ…」

 彼が女を口説くのは囮を繋ぎ止める為、ただそれだけ。そして、彼には、もう人に与えるだけの愛が残っていない。残っていないのだ。

 「だから、私をあんまり期待させないでください。ほら、私恋愛初心者だし…、光さんみたいな素敵な人にそんなこと言われたら舞い上がっちゃいますから…、だから…、どうか…」

 これ以上、期待させないで欲しい。

 「…」

 類は少し泣きそうになりながら、顔を背ける。こんな所で泣いて面倒な女だと思われたくない。

 すると、光は体を離して優しく類の両手を握った。

 「こんな時」
 
 光は小さな声で呟く。

 「昔の俺なら、いくらでも言葉が出てきた…」

 「…」

 「でも、今は何も出てこない…。意地悪したいんじゃないんだ…、本当に空っぽなんだ…、人が泣きそうなとき、困ってるとき、俺は何か言わなきゃいけないと思って必死に考えるんだ…」

 類は以前、光が懸命に励ましの言葉を考えていたことを思い出す。

 「お前が飛び降りようとしてた時も、俺は必死だった…、必死に何か無いかって考えて…出てきた言葉は、昔俺が爺ちゃんに言われた言葉だった…」

 その言葉に類は背けていた顔を光の方へと戻す。

 「それって…」

 「俺も…お前と同じ方法で何度も人生をリタイヤしようとした事がある…」

 「…」

 「母さんが死んだ時…、俺の中で何かが消えたんだ。多分それは人としての尊厳。道徳心…。いや、もしかしたらもっと違う何かかもしれない」

 まるで、今までの罪を告白するように光は震えた声で話を続ける。

 「だから、お前みたいな奴を救ってやりたかった。爺ちゃんがしてくれたみたいに…、愛してやりたかった。それなのに…。言葉でいくら愛を語っても、俺がやってることは人殺しと一緒だな…」

 「そんなこと…」

 すると、光は類の体を今度は優しく抱き寄せる。

 「辞めたい…?」

 「え…」

 「囮の仕事」

 意外な発言に類の瞳が揺れる。

 「今なら辞めてもいいよ…。ただ、その場合は記憶を消させてもらう…」

 「記憶を…?」

 類は思わず顔を上げる。

 「それって、みんなの事忘れるんですか?」

 礼二の事も、誠の事も、エリカの事も、そして光の事もー。

 「そう。いろいろと口外されたらヤバイこともしてるしね…」

 光はそう言うとようやく類の体を解放する。

 「まあ、ここを出るまでに考えておいてよ…、ちなみに俺がこんなことを言うのはもうこれっきりだから、辞めるなら今のうちだよ…」
 
 (光さん…)

 妙にその言葉が寂しく聞こえてしまった類は自分がもう既に末期なのだと実感せざるを得なかった。
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