性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「あーあ、こらだいぶ派手にやられたな…」

 二ノ宮は足元に転がる囮たちを見て大して驚いた様子も見せずに感想を述べた。

 「まあ、予想どおりだけどね…。きっと生きてるのは光とあの子だけだろうね…」

 堂上は顎に手を添えながら呟く。

 「にしても、ようこないな危ない現場に来てくれたわ。その南雲?っていう女おかしいんとちゃう?」

 二ノ宮は「ふわぁ」と大きく欠伸をしながら訪ねる。

 「まぁ、あいつの婚約者になるような女なんてみんなおかしな奴ばかりだよ…」

 堂上は悪気もなくそう切り捨てると、二ノ宮は可笑しそうに笑った。

 「まあ、せやな…。でもなんであの男の婚約者なんて呼んだん?」

 ただでさえあまり仲良くない人間関係だというのにわざわざ光の婚約者である南雲類を呼んだ理由が堂上には理解できずにいた。

 「おや、知らないのかい?彼女の母上は結構我々の界隈では有名な言霊使いだったんだよ?」

 堂上の言葉に二ノ宮は目を丸くする。

 「はあ?!言霊使いって、あの何千年に一度現れるっていう、あれかいな!」

 「そうそう。あれ」

 堂上はどこか小馬鹿にするように、答える。

 「でもなんでそないな事わかったん?」

 「光が協会に提出した報告書の内容からね…」

 堂上はそう言うと、一枚の折り曲げられた紙きれを二ノ宮に差し出す。

 「何やの?これ」

 二ノ宮は怪訝そうに差し出された紙きれを受け取ると、その中身を確認する。そこには達筆な文字でとある屋敷での出来事が事細かに書き記されていた。

 「えー、何々?現在、囮として組んでいる女は怨霊に取り込まれそうになるも、何故か無傷。そして、陰陽師が印を結ばずとも、何故か怨霊の姿は消滅……はあ?!」

 二ノ宮は一瞬紙切れを破りそうになるが、それをすんでのところで制止する。

 「要するに、あの女が言霊で払ったっていうんか?」

 「きっとそうだろうね…。俺もその一文が気になって彼女の事を色々と調べたら、まあ出てくること、出てくること…」

 堂上は瞳を開眼させると、意地悪そうに微笑む。

 「俺もっちゅう事は、先に気づいた奴がおるってことやな?」

 「おや、勘が冴えてるじゃないか…。実は会長が酷く気にしていてね…」

 堂上の言葉に二ノ宮は首をかしげる。

 「なんで、会長が出てくんねん?」

 「さあ?でもまぁ、色々思うところがありそうだったよ?そのお陰で俺もこうやって駆り出されてきたわけだし…」

 堂上はそう呟くと、長い廊下を楽しそうに歩き始める。

 「なーる。せやからここに呼んでそれが、ほんまの事か確認せいってことやな?」

 二ノ宮も同じように、堂上の後へと続いて歩き始める。

 「せやけど、それやったら尚更あの性悪陰陽師はいらんかったんちゃう?」

 「まあ、仕方ないよ。彼女を呼ぶ時点でそれは覚悟していたし…、それに、言霊使いは守る対象が明確なほどその力を発揮する…」

 「はあ?」

 「愛だよ。愛。一度見てみたかったんだ…。愛の力がどれほどのものかってことをね」

 堂上の言葉に、二ノ宮は「うえぇ」っと吐き真似をする。

 「さて、無駄話はここまでにして、そろそろ怨霊の核を潰しに行こう…」

 「怨霊の核?」
 
 「ああ、そうか、君は人の憑き物落とししか経験が無かったね…、こういった建物に憑いた怨霊を払うには核を潰す必要があるんだ…、核っていうのは、そうだな…、わかりやすく言うと親玉みたいな感じかな?」

 二ノ宮は、今自分がはまっているRPGのラスボスを思い浮かべる。

 「故に、囮は必須。稀に自意識過剰な奴が一人で乗り込んだりするけど…まぁ、それで生きて帰ってきた話は聞かないかな…」

 堂上の言葉に、二ノ宮は分かりやすく背筋を震わす。

 「基本的には、囮とツーマンセルを組む。こういった建物には様々な想念が渦巻いているからね…。無駄なもの引き付けてもらってる間、俺ら陰陽師は優雅に本体を頂く…。理解できたかな?」

 「人の時とは、やり方がちゃうってことやな…」

 「そうそう。人の場合はその憑かれた人が生み出してしまった怨霊を引き付けるのが囮の役割だけど、建物や場所に憑いた怨霊は核以外の雑多な怨霊って感じかな」

 「もう人相手やないってことやな…」

 「まあこういった案件は、下位ランクの君や素人には回ってこないから、知らなくて当然なんだけどね…」

 堂上は再び笑みを張り付けると、悪気もなく二ノ宮を侮辱した。
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