性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 あれ以降、特に会話をすることもなく風向きを頼りに類と光は歩き続けていた。すると、光はあるポイントでその歩みを止めた。

 「ど、どうかしたんですか?」

 突然立ち止まってしまった光に類は戸惑いの表情をみせる。

 「…風が、消えた」

 光は小さな声でそう呟くと、警戒するように周囲を見渡す。

 先程から何度も同じような場所をぐるぐると回っているような感覚に類は小さく溜め息を吐く。普段こんなに歩くことがない為、彼女の足はもう既に限界を超えている。

 「大丈夫?」

 「大丈夫…、じゃないです…。というか、光さんって見かけによらず、体力ありますよね。あんまり息切れとかしてるとこ見たことない」

 類は疲労の溜まった足を叩きながら、恨めしそうに光を見つめる。

 「まぁ、陰陽師としてそれなりに肉体訓練も受けてるし、一応学生時代はバスケで県大でてるから」

 光は「何だ、そんな事」といいたげに、サラリと呟く。

 「バスケ部だったんですか?」

 「期限付きの」

 「期限付き?」
 
 「何かと、駆り出されたんだ…、もともと礼二がやってて、大会までに人数足りねぇから入ってくれって、俺は部活動とかクソ面倒だから嫌だったんだけどね…」

 部活動にあまり良い思い出がないのか、光は不愉快そうに顔を顰める。

 「お陰で、他の部活にも駆り出されていい迷惑だった。ただでさえ陰陽師の仕事で忙しいのに、スポーツまでやらされたら嫌でも体力つくだろ…」

 「そ、そうですよね」

 内心、よくそれで県大会なんて出れたなと感心しながら類は苦笑する。

 「ちなみに、県大会の結果は?」

 「ベスト4」

 「え、それって結構凄いんじゃ…」

 予想外の結果に類は素直に驚く。

 「まぁ、礼二はそれなりに上手かったからな…、他の部員も下手なりに努力してたみたいだし」

 その言葉に思わず類は微笑む。

 「…また、なんか面白い事でもあったか?」

 「はい。光さんは礼二さんの事が大好きなんだなって事がよくわかりました」

 何だかんだで、礼二に甘いのはきっと無意識なのだろう。

 「…まぁ、勝手にそう思っとけば?」

 「はい。勝手にそう思います」

 「…」

 「それより、これからどうします?風…消えちゃったんですよね…」

 類は再び話を元に戻すと、不安そうに辺りを見渡す。

 「恐らく出口付近にいるのは確かなんだ。ただ、何者かが俺達をここから出すまいと意図的に風を消している」

 光はそう言うと、ふと何かに気がついたのか何もない天井を見上げた。

 「どうしたんですか?」

 「見られてる…」

 「え?!だ、誰にですか?!」

 類も気になって天井を見上げる。しかし、そこには何もない。

 「ど、どこですか?」

 「…いや、お前には見えないよ」

 光はそう言って微笑むと、類の頭をくしゃりと撫でた。

 「消えたものは仕方ない、一先ず歩いてみよう。もしかしたら偶然出口に出るってこともあるかもしれないしね」
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