性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 みんな守ってあげるー。

 さぁ、ここにおいでー。

 ここは安全な神の領域ー。
 
 ここにいればもう大丈夫ー。

 


 堂上はふと、長い廊下の真ん中で立ち止まる。

 「どないしたん?」

 突然立ち止まった同僚に、二ノ宮は不可解そうに首を傾げた。

 「いや、今何か聞こえた気がしてね…」

 堂上は微笑みながら答える。

 「こっちだ」
 
 何かに導かれる様に、堂上は長い廊下をぐいぐいと進んでいく。すると、今まで何もなかった空間に一つの扉が現れた。

 「おや、どうやら案内してくれるみたいだよ?」

 堂上はそう言うと、その扉に手をかける。

 「だ、大丈夫なん?そんな、よう分からん扉あけて…」

 二ノ宮は少し気味悪そうに尋ねると堂上は「多分ね」と呟いた。

 扉の中には、とても広い空間が広がっていた。壁には一面に本が収納され、まるでどこかの国立図書館の様に綺麗に整頓されている。

 「これは、凄い」

 堂上は興味深そうに呟くと、一つの本を手に取る。

 「な、なんやの?それ…」

 「心理学の本だね、きっとここで働いていた職員の為のものだろう…」

 パラパラとページを捲る堂上に、二ノ宮は「ふーん」と興味なさげに反応を示す。

 「きっとここでは、療養以外にも治療を目的とした何かを行っていたんだろうね…」

 堂上はそう言うと、「ほら、これなんか医学者だ」と嬉しそうに呟いた。

 「治療?心の病って治せるんか?」

 「治せる場合も、あるしそうでない場合も…、あとは治ってもまた再発する場合もあるね…」

 「まるで、憑かれ人と一緒やな…」

 二ノ宮は今日確かに存在していた囮達の姿を思い出す。

 「そうだね。だから俺たちのような陰陽師がいるわけだ」

 堂上は、片っ端から本のページを捲っては床へと投げ捨てていく。

 「せやけど、そんなんやったら治療やなくて僕らみたいなんに頼んだらよかったんちゃう?」

 二ノ宮は、落ちた本を拾い上げると几帳面にそれを端へと置いていく。

 「ここの施設長が、そういうのに懐疑的だったらしいよ?今でこそ目に見えない世界は認知されつつあるけど、昔はただのオカルト集団としか思われてなかったみたいだからね」

 堂上はひとしきり本を確認すると、突然興味を失ったのか部屋の奥へと移動する。

 「そら、大変やったやろうな…」

 二ノ宮は、精神を病んだ者を自力でどうにかしようとしていた、看護師や施設運営者に同情の色を示す。すると、突然堂上は声をあげて笑い始めた。

 「な?!、なんやの…?」

 「いや、失礼。君が中々下位ランクから上がれない理由がわかってしまって…」

 「はぁ?!」

 突然、侮辱された二ノ宮は思い切り顔を歪める。

 「君はいつも悪振ってるけど、実は繊細で怖がり、囮の死体を見た時だって、本当は怖くて仕方ないのに、なんとか虚勢を貼り付けて俺の後をついてきた…」
 
 違うかい?とにこやかに尋ねる堂上に、二ノ宮は顔を引き攣らせる。

 「それに、君はいつも生あくびが絶えない」

 「そ、そら、眠いからや…」

 「几帳面な君が夜更かしでもしてるのかい?まさか…。君は仕事前にしっかりと睡眠をとっているはずだ。下位ランクの陰陽師はそこまで忙しくないからね」

 「せ、せやったら何やねん。別にあくびくらい普通に出るやろ…」

 「光がそう言うなら何となく納得できるんだけどね…」

 「俺やったら納得でけへんのかいな…」

 二ノ宮は恨めしそうに堂上を睨みつける。

 「知ってた?生あくびって体をリラックスさせるための防衛反応の一つなんだ…」
 
 「…」

 「君はここに来てから生あくびばかり、初めての大きな仕事に異常行動が止まらない証拠さ」

 堂上はそう言うと、再び奥の部屋へと進んでいく。

 「しゃ、しゃあないやろ!僕のランクは藍の一段!君らみたいな上位ランクとちゃうねんから!」

 二ノ宮は開き直った様に吐き捨てると、堂上はニコリと微笑んだ。

 「ランクを上げたければ、優しさは捨てろ。上位者に人としての感情は不要なんだよ…」

 堂上はそう呟くと、とある場所で立ち止まった。

 「な、なんや?」

 不自然に立ち止まった堂上に、二ノ宮は警戒心を露わにする。

 「どうやら、ここみたいだよ?」

 堂上はそう呟くと、右足をコンコンと数回鳴らしてみせた。すると、地響きと共に床下へと続く階段が姿を現した。

 「なんや、これ?隠し通路か?」

 二ノ宮はまじまじと地下へと続く階段を覗き込む。

 「恐らくね、怖いならここで待ってるかい?」

 「アホぬかせ、行くに決まってるやろ」

 二ノ宮はふんと鼻を鳴らすと、堂上の後に続いて階段を降り始める。

 「なんや、えらいカビ臭いな…」

 「地下だからね…」

 「なんで、療養施設に地下なんてあんねん…」

 二ノ宮は鼻を摘みながら、前を歩く堂上に尋ねる。

 「別におかしなことじゃないさ。現代でも、地下に様々な設備が設置されてることはよくあることだ。俺がバイトしていた商業施設も、従業員の休憩室は地下にあったからね」

 「君がバイト…」

 二ノ宮は笑顔で接客する堂上を想像すると「うぇ」っとえずいてみせる。

 「そんなことよりも、一番不可解なのはその地下施設が何故あんな隠れた場所にあったのかってことさ」

 「まぁ、確かに分かりづらい場所やったな…、部屋の奥のあないなところに普通階段なんて作らへんわ」
 
 二ノ宮は先程までいた部屋の形を思い出すと、珍しく堂上の意見に共感を示す。

 「そうだろ?と、なるとやはりこの地下には見られてはいけない何かがあるってことだ」
 
 すると、突然堂上が歩みを止めた。後ろを歩いていた二ノ宮も何事かと歩みを止めると、ふと視線の先に広がる光景を見て思わず息を呑む。

 「な、なんやこれ…」

 そこには、無数の牢とその中で朽ち果てた無数の骨が散乱していた。

 「なるほど、どうやら怨霊の原因はここみたいだね…」
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