性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「そういえば…」

 光は類の手を引きながら、何か思い出した様に口を開いた。

 「エリカが、お前とデートしたいって喚いてたぞ」

 「え?エリカちゃんが?」

 類は意外な人物の名に少し驚いた反応を見せる。

 「あぁ…、なんか知らねぇけど変な計画企ててたな…」

 「企てるって…」

 もっと他にいい方があるだろうに。と思いながらも類はその計画の内容について尋ねてみる。

 「制服がなんちゃらっつってたな…、そんでゲーセンと服屋に行くんだってよ」

 類は謎のワードに首を傾げる。

 「要するに、制服デートってやつですか?」

 「お前、その年齢でよく知ってんな…。俺は最初聞いた時驚愕したぞ…」

 光はどこかげっそりとした表情で呟く。

 「そうですか?、要するに制服のコスプレして遊びに行きたいって事ですよね?」

 「…まぁ、要するに、そういうことらしいな」

 回りくどい言い方に類は苦笑する。それなら、そうと最初から言ってくれればいいものを。

 「もっと嫌がると思ったんだけど…」

 「い、嫌がりませんよ!、なんたって遊びのお誘いですからね!」

 「…」

 どこか嬉しそうな雰囲気の類に、光は小さく溜め息を吐く。想像とはまるで違う反応に、何と声をかけて良いのかわからない。

 「制服かぁ、まだ着れるかな…?」

 「無理に決まってんだろ…年齢考えろ」
 
 やけに嫌そうな光の態度に類は顔を顰める。

 「別にいいじゃないですか!誰にも迷惑かけないし…」

 そう。別に誰にも迷惑をかけているわけではないのだ。ただ世間が勝手に年齢という数字を軸に、こうであるべきという価値観を押し付けているだけに過ぎない。

 うん。きっとそうだ。

 「まぁ、お前はいいにしても、問題は、俺だよ…」

 「は?」

 光の発言に類は間抜けた声を出す。

 「どうして、光さんが問題なんですか?」

 「お前が行くなら俺も行かなきゃなんねぇだろ…」

 その発言に類は分かりやすく、表情を引き攣らせる。

 「お、女の子同士の遊びにわざわざ着いて来るんですか?!」

 まるで、日頃から妻の行動を監視するDV夫の様な言い分に類は思わず声を張り上げる。

 「んな引く事ねぇだろ…」

 「さすがに、引きますよ…」

 類は、不満そうにそう訴えると光は再び盛大に溜め息を吐いた。

 「女同士だからだよ…。エリカは頭がいいとはいえ、まだ十代…。何かあった場合、責任が取れない年齢だ。お前が普通の一般人ならそれでもいいけど、お前は俺の婚約者。何かあったら胸糞悪い…」

 「…」

 「…わかった?」

 光のいい分に類は、少し気恥ずかしくなる。

 「要するに、私が心配ってことですか?」

 「…」

 「…」

 「…要するに、そういうこと」

 光の反応に類は思わず、引かれていた手をギュッと握りしめる。何故、この男はこんなにも女を喜ばせるのが得意なのか。すると、光は何かを察したのか、どこか取り繕う様に一つ咳払いをする。

 「まぁ、それ以外にも、また堂上とか余計な奴らに目をつけられても困るし…ほら、保護者的な立ち回りだよ」

 懸命に、話の流れを変えようとしている光に類は小さく微笑む。きっと先ほどの発言は無意識に出たものなのだろう。

 「な、なるほど…!た、確かにエリカちゃんはまだ十代ですもんね。私もそんなにしっかりしてないし…、でもそれじゃあ、恋バナとか出来ませんね!残念!残念!」

 類は出来るだけ、おどけた様子で答える。ここでいつも通り、適当にあしらってくれれば問題なくこの気まずい雰囲気を払拭できると思ったのだが…。

 「…恋バナしたいの?」

 「へ?、えぇまぁ…。エリカちゃんくらいの子ってそういう話好きかなぁって」

 意外な反応に、類は少し面食らった様子で答える。

 「あぁ、そういうこと…」

 「?」

 何が一体そういう事なのか。

 すると、再び何かを察したのか今度は光が類の手を握り返してきた。

 「ってきり、好きな奴でもいるのかと思った」

 「はぁ?!い、居る訳ないじゃないですか!?」

 ただでさえ、孤独な身の上なのだ。恋に落ちるほど異性に出会ったこともなければ、そんなことしている余裕もない。

 類の反応に、光は珍しく声をあげて笑いだす。これまた以外な反応に類は首をかしげる。そんなに面白いことを言っただろうか?

 「いや、ごめん。ごめん。そうだよな…、居たら俺がとっくに裏から手回してる」

 サラりと不穏なことを呟いた光に、類の背筋が冷たくなった。時々、彼は何かの精神疾患でも抱えているのだろうかと思うことがあるが専門家ではないので、その是非を問うことは出来ない。

 「光さんって、もしかして何かご病気でも抱えていたりしますか?」

 「は?別になんも抱えてないけど、何で?」

 「いえ、何となく聞いてみたかっただけです…」

 言葉を濁す類に、光は「んだよ」と興味なさげに答える。

 「大丈夫だよ。俺はいたって健康、健康だよ…」
 
 (あれ?、何だろう…)

 「…」

 「光さん」

 「ん?」

 類の呼びかけに、光は歩みを止めて振り返る。

 「…」

 「何?なんか不安になった?」

 「はい。何だか私…今とても不安になりました…」

 類はうつむいたまま呟く。

 「何が、そんな不安になった?」

 「光さんが、光さんでなくなってしまうのが…」

 「俺が…?」

 光は類の発言に首をかしげる。

 「類。俺は俺だよ。どこにいても。そして、お前はお前だろ」

 「いいえ。私は…」

 どこか、様子のおかしな類に光は手を優しく手を伸ばす。

 「類…大丈夫だよ」
 
 「光さん…。私は本当に私でしょうか…?」

 「あぁ、お前は、お前だ」

 すると、突然体の平行感覚を失ったように類は倒れこむ。光はそれを受け止めると、ゆっくりとその場に類を座らせてやる。

 「光さん…、私、なんか変」

 「大丈夫だよ。お前は今、自分の仕事を全うしているだけだ」

 光は、そう言うと類の背中に張り付く、無数の怨霊を見て目を細める。先ほどから類の体には異常なほどの怨霊が憑いてきている。しかし、これは今に始まったことではない。

 (あいつらは、まだ祓えていないのか…)

 光は苛立たし気に眉間を寄せると素早く印を結んで、類の体に取りついた怨霊を何体か払ってやる。出来れば今すぐにでも全ての怨霊を払ってやりたい気持ちは山々であるが、さすがに一人で祓いきれる量ではない。それに、そんなことをすれば囮として連れてきた意味が無くなってしまう。


 「類、大丈夫だよ。堂上達が本体を払ってくれるまでの辛抱だ」

 光はそう言って、腕の中で震える類を力強く抱きしめた。
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