性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 翌日、類はメゾネットタイプの階段をソワソワとした心持ちで降りていく。

 膝下あたりで揺れるスカートの感触に慣れない上に、何故かとても羞恥心にかられるのは自分がそれなりに歳を重ねたからかもしれない。

 (ダメだ。クッソ恥ずかしい…)

 類は一目散に洗面台へと向かうと自身の姿を見て、両腕をさすった。

 (制服デート…憧れだったけど…)

 いざやってみるとかなり勇気のいる事だと理解する。しかし、こういうはっちゃけた経験が皆無の類にとってエリカの申し出はとても魅力的に見えてしまったのだ。

 (髪型、どうしよう…)

 確か、学生時代は二つ結びをしていたが、果たしてこの年齢でまだそれが通用するものだろうか?

 (でも、なんか、下ろしっぱなしってのも…)

 「ハーフアップは?」

 「あぁ…、ハーフアップなら…うわぁあ!」

 類は声のする方へとごく自然に顔を向けながら反応すると、すぐそこに光の顔があった。

 「俺がやってやる」

 「は?!って、え?」

 類はその発言に驚きつつも、光の格好に釘付けになる。

 「…光さん」

 「何?、ほら結んでやるから前向いて」

 類の顔を無理やり鏡の方向へと向けると、光は淡々と類の髪の毛をとかしはじめた。

 「…あの」

 「…」

 「それって、ブレザーですよね?」

 「だったら何だよ」

 悔しいが、かなり似合っている。

 いや、年齢を考えれば自分よりかなり痛い筈なのに、光のブレザー姿は何故かとても心躍らせるものがあった。

 「…学校、ブレザーだったんですか?」

 「そうだけど?頼むからそれ以上この服装に触れないでもらえる?」

 「え、なんでー」

 「お前と一緒で、俺も全力で羞恥心と戦ってるから」

 光の発言に類は思わず吹き出してしまう。

 「光さんは別に私服でもよかったんじゃないですか?」

 「それだとおっさんがJK連れまわしてる構図になるだろ…。絵面的に完全にアウト」

 「そ、そうですか?光さんパッと見二十代くらいに見えるから問題ないと思いますが…」

 類は鏡映る光の顔をまじまじと見つめる。

 「二十代に見えようが三十代に見えようが、家族以外の大人がJK連れまわしてたら色々と問題だろ…。下手したら職質されて不審者扱いされる」

 「しょ、職質って…」

 「昔と違って今の時代はそういう事に厳しいんだ。自由恋愛だってこっちが主張しても法律で守られるのは十代だしな…。だから出来るだけ年齢を詐称する必要がある」

 「な、なるほど…」

 今の時代、制服デートも一苦労なようである。

 「ま、これがテーマパークとかならそこまで怪しまれねぇんだけど」

 光は類の髪に櫛を通しながら呟く。

 「で、でも光さん、よくお似合いですよ?今時の高校生みたいで…」

 「嬉しくない」

 「す、すみません…」

 「俺ってそんな子供っぽい?」

 「お仕事の時、以外は…」

 「また、髭でも生やすかな…」

 光は真剣な表情で思案する。

 「そういえば以前、髭を伸ばしてたと言ってましたけど、何で辞めちゃったんですか?」

 類は不思議そうに尋ねる。

 「…新しい婚約者が嫌がった」

 「あぁ…、なるほど」

 「今度生やしてみるから、お前も選んでよ」

 光の言葉に、類は苦笑する。そして、どこまでも婚約者ファーストな光の心を少し心配する。

 「光さん、私は…」

 「…よし、できた。こんなもんかな」

 ふと、髪型に視線を移すと綺麗なハーフアップが完成されていた。

 「す、凄い…」

 「そこら辺の美容師より上手いだろ?」

 どこか満足げに、自慢する光に類は素直に頷く。

 「す、凄いです!!これも昔お付き合いされてた方から教えてもらったんですか?」
 
 「まぁ、そんなとこ。でも半分はエリカかな?」

 光は引き出しを引くと、男性用のヘアワックスを取り出す。

 「もしかして、エリカちゃんの髪結ってあげてたんですかか?」

 「最初はその予定だったんだけど…、髪の毛の結い方に関しては礼二の方が上手かったから、俺は予備軍として練習だけさせられた」

 「よ、予備軍…」

 「エリカに言わせれば礼二が一軍、エリカ自身が二軍、そんで俺が予備軍なんだとよ」

 エリカらしい表現方法に類は微笑む。

 「ちゃんと予備軍として、練習したんですね」

 「そら、まぁ…、JCにお願いされたら断れねぇだろ…」

 「エリカちゃんは女子高生、JKですよね?」

 類は不思議そうに首を傾げる。

 「今はな、でも社に来た時はまだ中3だった」

 「そ、そうだったんですか…」

 まさか、そんな昔から住んでいるとは思わなかった。

 「まぁ、あいつの場合、親が忙しすぎて預けられたってだげだったから、そんな悲壮感もなかったけどな」

 類の反応に、光は言葉を付け加える。

 「親御さん、そんなにお忙しいんですか?」

 「さぁ?、エリカの話じゃ二人共研究者で研究室に篭りっぱなしだって言ってたな…」

 光は髪の毛を整えながら答える。

 「お二人ともとなると、結構大変そうですね…」

 そうなると、きっとエリカはあまり親に相手をしてもらえなかったのかもしれない。

 「大変だろうな…、ただでさえ仕事と育児の掛け持ちはキツイって聞くしな」

 珍しく光の口から同情の言葉が漏れる。

「まぁ、でも、エリカ自身は親元から離れて楽しそうだし、親御さんも毎月エリカの顔観にくるから、関係は悪くはないんだと思うよ」

 光はそういうと手についたワックスを水で洗い流す。

 「そもそも、エリカは小学生の時点でアメリカの大学を出てるから、親としては社会経験の方を積ませたかったんだろうな」

 「じゃあ、鴉天狗で働いてるのもそれが理由で…」

 類は、なるほどと納得する。
 
 「そういうこと。ってか高校行かなきゃもっとシフト入って貰えたのに、あいつが日本のJKを堪能したいとか、ほざくから…」

 どうやら、エリカが高校生をしているのは他でもない本人の意向によるものであるらしい。

 「だから、まぁあいつはやりたいようにやらせてる。特に学校で問題起こしてくるわけでもないし、仕事はできるから」

 「やっぱり賢いからなんですかね?」

 「さぁ?、まぁお前より賢いのは確かだな」

 光は意地悪く笑うと、仕上げとばかりにブレザーについた埃を祓う。

 「よし、出来た。さてそろそろ出よう。確か待ち合わせは渋谷のハチ公だったな?」

 「はい!」

 類は嬉しそうに頷くと、二人はようやく光邸を後にした。
< 97 / 131 >

この作品をシェア

pagetop