彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
もう、迷わない
中庭で梅木さんと別れてからも、その言葉はずっと胸のどこかに残っていて、ふとした瞬間に浮かび上がってくるたびに、目を逸らしていた自分を思い知らされる。
答えは、自分の中にある。
そう言われたとき、何も言えなかったのは、わからなかったからじゃない。
痛いほど、わかってしまったからだ。
それでも、すぐに瀬名先生のところへ行けるほど、私はまだ強くなれないでいる。
その前に、ちゃんと向き合わなきゃいけない人がいる。
ナースステーションの前を通りかかったとき、その人物の姿が目に入って、思わず足が止まった。
呼ぶかどうか、ほんの一瞬だけ迷って、それでもそのまま視線を逸らすことができなかった。
「しげぴー」
名前を呼ぶと、振り向いた顔はいつもと変わらないように見えて、でもどこか少しだけ、何かを察しているような目をしていた。
全部じゃなくても、少なくとも、このあと私が何を言おうとしているのか、くらいは。
「今日、仕事終わり、少し時間ある?」
できるだけいつも通りに聞いたつもりだったけれど、自分でもわかるくらい声が少しだけ固くなっていた。
しげぴーは一瞬だけ間を置いて、それから小さく頷く。
「あるよ」
それ以上は聞いてこない。
その優しさに甘えたくなる自分を、ぎりぎりで押しとどめる。
「……話したいことがあって」
そう言うと、「わかった」とだけ返ってきた。
その短い一言だけで、もう引き返せない場所まで来てしまった気がして、喉の奥がかすかに乾いた。