彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません


 脳外は今も満床が続いており、現在一般内科には2名の瀬名先生の担当している患者さんがいる。

 瀬名先生の患者さんがいる以上、嫌でも顔を合わせることになってしまう。
できるだけ、関わらないように、今まで通り自然に、を心がけていた。


 今日はナースステーションの空気が、いつもより少しだけ騒がしかった。

「○号室の〇〇さんの点滴、先に準備しておくね」
「ありがとう、私採血の準備しとく!」
「先生もう来てる?」
「さっき通ったよ!採血の指示出すって言ってた!」

 申し送りが始まる前に、みんな担当患者さんの点滴をすべてミキシングし、すぐラウンドできるように準備している最中。

 よりによって、自分の受け持ちチームに瀬名先生の患者さんがいる。

 せめて、受け持ちでなければ、挨拶を交わすくらいで済んだはずなのに。

 朝から心が、変なドキドキに支配されている。

 仕事に集中しなきゃ、と点滴のルートを巻きつけながら息を大きく吐いた。


「吉岡さん」

 背後から呼ばれる声。

 瀬名先生だ。

 反射的に返事をしそうになって、私は一瞬だけ呼吸を止めた。

「…はい」

 振り向いた瞬間、いつもの柔らかな笑顔が視界に入る。

 それだけで、胸の奥がきゅっと痛んだ。
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