月とスッポン  一生に一度と言わず
手を解き、座り込む。
まっすぐ伸びた見切り石を写真に収める。

スマホ画面に映り込む白い物体に、スマホをどかして見て見れば、溝を優雅に歩く1匹の鶏。
さらに視線を上げれば、通常立ち入り禁止の芝生の上を自由に歩き回る鶏たち。

なぜ?

大河の顔を見れば「神鶏ですね」とさも知っていて当たり前のように言い放つ。
憎らしい。

「しんけい。自律」
「それは神経。体内での情報伝達の役割を担う組織です。
私が言っているのは、神の使いである鶏で神鶏です」
「知ってて言ったし」

ムキになって言い返しても、ふっと鼻で笑われた。

「《“天照大神が天岩戸に隠れて世の中が闇に包まれて。
その際に、八百万の神さまが話し合った結果、鶏の声を皮切りに宴会初めて誘い出したって話に出てくる鶏が神鶏だって事ぐらい知ってますけど》」

ドヤ顔で言ってみる。

「《“常世の長鳴鳥”である鶏を一列にならべさせ、その長い美声で天照さまを誘い出そうという知恵の神であるオモイカネの案を出し、
その結果、作戦が見事に成功し、アマテラスを天の岩戸から出す事に成功しました。
それ以後、この常世の長鳴鳥がアマテラスの使いと呼ばれるようになったそうです》」

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