結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
物音がして驚いて顔を上げたら、八木沢さんの足下に彼の通勤鞄が落ちていた。脱力したように両手をだらりとさげて、戸惑った表情のまま私を見ていたから、困らせているんだと思って言葉を続けた。
「ごめんなさい、変なこと言って。迷惑ですよね」
リビングに続く扉が少し開いていて、そこからエアコンで冷えた空気が流れてくる。玄関は暑いから、握りしめた両手が汗ばんでいる。申し訳ないから、もう切り上げて帰ってもらおう。そう思っていたら、彼が長い息を吐いて、それから片手で顔を覆って呟いた。
「よかった……嫌われたんだと思いました」
「嫌いになんてなりません。逆です。とても好きです」
安心したように笑っている八木沢さんにびっくりした。
もしかして、自分で思っている以上に、私は彼から大切に想われている?
「逃げたりして、ごめんなさい」
「ええ、ショックでした。だから、もう逃げられないようにしますね。中途半端はよくないので、いっそずっと僕のことだけを考えるようにしましょう。自由を奪って、部屋に閉じ込めて……」
腰を引き寄せられて、まっすぐ見つめながらそんなことを言われて、理解が追いつかなくて呆然としていたら、八木沢さんが淫猥に笑った。
「冗談だと思ってます?」