結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「お風呂の準備ができましたよ」
八木沢さんにそう声を掛けられて目が覚めた。ここどこ? と見回して、すっかり見慣れてしまった十五階のリビングだと気づいた。ソファで横になって眠っていたみたいだけど、どうやってここまでたどり着いたのか覚えていない。
「すみません、眠って……?」
「僕が抱えたら、すやすや寝ちゃいましたよ。酔うとこんな無防備になるなんて知りませんでした。次回からは必ず迎えに行きます」
八木沢さんにくっついていたら、安心して眠くなったんだ。確かに無防備すぎた。
ソファに座って、まだぼんやりしている私のブラウスのボタンを、八木沢さんがひとつひとつゆっくり外していく。
「ありがとうございます。ごめんなさい、またご迷惑をおかけして」
「いえ、さきほど冬崎さんから事情は聞きましたから……飲みたくなる気持ちもわかりますよ。理不尽だと思います」
「大丈夫です、違うお仕事を探します」
「そうですか。だったら、僕もそのほうが安心です」
「……安心? どうしてですか?」
ただでさえ不安定なのに、仕事を辞めるつもりだなんて、他人にはよく思われないと思っていた。
わからないから八木沢さんを見つめていると、彼が困ったように視線をそらした。
「正直に言うと……あなたと、あなたの元婚約者が、近くにいるのは嫌なんですよ」
本当は誰にも見せたくないのに。そう呟いて困ったように笑う。ずっと年上のはずなのに、その表情がとても可愛くて、思わず抱きついてしまった。しばらく体を寄せていたら、八木沢さんの体温が気持ちよくてまた眠くなってくる。
「心配してくださって……ありがとうございます」
「そんなにくっついていたら服が脱げませんよ。さあ、お湯が冷めないうちにお風呂に入ってください」
なだめるように私の髪を優しく撫でてから、背中に手を回して下着も外してくれた。
解放感に思わず声が漏れる。
「あ……っ……」
「こら、和咲さん。そんなエロい声を出したら、誤解されますよ?」
「ご、ごめんなさい! あの、あとは自分で脱ぎます」
よたよたしながらお風呂場に行こうとして、何もないところで見事に転んだ。「危ないから僕が洗います」と言われて、浴室まで連れて行かれたので、大人しく従うことにした。