結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
八木沢さんから何を言われるんだろう。怖い。もうあなたは要りません、って言われるのかな。
逃げたいけれど、鍵を持っていないことに今さら気づいた。何も持たずに出てきてしまった。エントランスに入ることもできない。馬鹿すぎる。とことん馬鹿だと思う。寒くて手の震えがとまらない。
「もしかして、この子、東梧の彼女なの? へえ……そうなんだ。あなた、どうして私を呼びとめたの? お人好しすぎるわよ。私なら黙ってる」
そう、黙っていればよかった。知らないふりをすればよかった。
ヒールの音と人の気配に振り返ったら、桂先生が真後ろに立っていた。その視線には敵意しかない。明確に、私の存在を否定している。
八木沢さんは、私と結婚するつもりはない。先日、はっきりとそう聞かされたばかり。だから、私なんかに敵意を向けなくていいのに。
彼女がゆっくり口角を上げて、妖艶に笑いながら小さな声で呟いた。
「つなぎの彼女かな?」
「……やっぱり帰ってください」
「動揺しちゃって可哀想に。ありがとう。おかげで色々分かった」
泣くのを堪えながら、もう一度「帰って」と訴えた。でも、彼女は憐れむように笑うだけで、動こうとはしなかった。