結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

「質問って何?」
「雅姫さんは、ご結婚されてますよね? どうして日本に帰ってきたんですか?」

「結婚してるよ。でもいま、離婚裁判の途中なの。離婚するには、二年以上の別居っていう実績がいるんですって。原因は夫の浮気なのによ? 長いと思わない? どうせ別居するならと思って帰国した」

「別居……そうだったんですか……」
「私は子供を産みたくないの。それを承知で結婚したはずなのに、やっぱり子供が欲しいからって、若い女と浮気してたのよ、あの×××××野郎!」
 
 思い切り下品なスラングで罵っていた。美人が怒るとより怖い。
 帰国すると、知り合いがちょうど産休に入る医師の代わりを探していた。イギリスで婦人科だけは臨床の経験があったから、アルバイトとして採用されたらしい。

「裁判のことは手紙に書いたから、東梧は知ってると思うけど。聞いてないの?」
「手紙……」

 あのとき、八木沢さんが捨てようとした手紙だろう。
 雅姫さんは、八木沢さん宛の手紙に、離婚予定であることと、「日本に帰ったら会いたい」と書いたそうだ。しかし返事はなかった。だから、病院で話したときの雅姫さんは、「会いたいけれど、会うのが怖い」と躊躇っていた。

「……聞いてません……」
「あら、そう……東梧、あなたには言ってないんだ」

 その言葉に哀れみが含まれている気がした。口調は優しかったが、優越感が混ざっているように聞こえた。
 ……私はその内容を知らない。知らされていない。
 八木沢さんは、私には話してくれなかった。
 胸の奥に、また新しい棘が刺さった気がした。

「裁判で不利になりたくないし、しばらくは我慢する。この前もちゃんと帰ったでしょ?」

 我慢。八木沢さんも、我慢して……私と付き合っているのかな……?

 別居から二年経って、彼女が正式に離婚するまで。




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