結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 骨董品の売却が終わり、荷物の運び出しがすむと部屋がとても広くなった。
 掃除を終えて、休憩にお茶を淹れる。いつも通り。

「広くなりましたが、家賃はこれまでと同じでいいですから……」

「いいえ。私が出て行って、相場通りの家賃で、誰かに貸したほうがいいと思います。私、お引越ししようと思っています」

 ダイニングテーブルにお茶を置きながら、何気ない口調でそう答えた。
 私にできることは、笑って嘘をつくこと。八木沢さんを困らせないように。

 空になった棚を見ていた八木沢さんは、私のほうへ振り返ったが、一言も発しなかった。怖くて、彼の顔を見ることが出来ない。物がなくなったリビングは、以前よりも寒い気がする。

「もう、この部屋にいる理由もないですし、そろそろ別れたほうがいいと思うんです」

 沈黙が痛い。息が苦しい。自分がきちんと笑えているのか自信がない。

 毎日、とても楽しかった。知らなかったことをたくさん教えてもらった。あのままだったら出会えなかった、たくさんの人に出会った。やりたいことも見つけられた。全部、八木沢さんと一緒にいたから。

 こんなこと考えていたら泣きそうになるから、思考を遮断する。

「今までありがとうございました」

 八木沢さんが腕を伸ばして、私の頬に触れる。見上げると、彼があまりにも冷たい目をしていたから、心臓が凍り付いて止まってしまうんじゃないかと思った。

「僕と別れたいんですか?」
「はい……」

 冷ややかな声に、喉が詰まりそう。こんな顔をさせてよかったんだろうか。
 悲しみとは少し違う、失望に近いような、こんな表情を。


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