結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
八木沢さんに腕を引かれるまま一歩踏み出して、胸に飛び込んで名前を呼んだ。
包むように抱きしめられたら安心する。腕を背中に回して、私からもぎゅっと抱きついて、もう二度と触れられないと思っていた体温を確かめた。やっぱり大好きだ。
「八木沢さん、どうして……?」
「だめです。どこにもいかないでください。あなたにとって僕は必要なくても、僕にはあなたが必要です」
ホームまで走ってきたのか、苦しげに息をしているから、心配になって見上げたら、八木沢さんはまっすぐ私を見ていた。
「僕はあなたと別れたくない」
「私は、別れたい……です」
見え透いた嘘で悪あがきした。別れたくなんかない。会えただけでこんなに嬉しいのに、離れたいわけがない。
「嘘つき……和咲さんは嘘をつくのが下手ですね。どうして別れたいと言ったのか、理由を話してくれますか?」
彼は腕の力を少し緩めて、私が答えるのを黙って待ってくれた。
「……私がいたら、雅姫さんの所へいけないですよね。八木沢さんが困らないように、私はいなくなりたいんです。私はずっと助けてもらってばかりだから、八木沢さんが困っていたら力になろうって決めてたんです。困らせたくないんです」
私の答えを聞いた八木沢さんが、ほんの少し頬を緩めた。ホームは電車の走行音や入線のアナウンス、雑踏のざわめきで煩かったけれど、それらが遠くなった気がした。