結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「僕は、あなたがいなくなるほうが困ります。あなたから雅姫のことを質問されたとき、『記憶が不鮮明』だと言いましたよね? 彼女を忘れたいと思っても、ずっと忘れられなかったのに。どうしてだかわかりますか?」
問いの答えが分からないから、私は首を横に振った。
私を見つめていた彼が、安堵と困惑が混ざったような表情で少しだけ笑う。
「和咲さん、あなたがいるからですよ。僕の頭の中は、和咲さんでいっぱいなんです。だから彼女のことを思い出せなくなったんです。僕にとって日常は苦痛でした。でもあなたでいっぱいになったから、もう僕は苦しくないんです。あの日、ここで、あなたに会えてよかった。救われたのは僕のほうです」
言われたことの意味がわからなくて、また首を横に振った。助けられてばかりで私は何もしていない。甘えてばかりなのに。
「雅姫に再会して、『会えてよかった』と思いました」
雅姫さんの名前が出て、自分でもみっともないと思うほどに肩がびくりと震えた。
それに気づいた八木沢さんが、私の体をもっと強く抱きしめてくれる。少し背伸びをしていたから、まるで抱きかかえられているみたい。
「雅姫の顔を見て、とても懐かしいと思ったのは事実です。でも、思い出とはやはり別人なんですよ。それを確認できました」
私はゆっくり上を向いた。あのとき、八木沢さんは「心配しなくていい」と言ってくれた。でも、私はその言葉が本心なのかわからずに疑った。信じ切れなかった。