結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
記憶
新宿駅には、秒刻みのダイヤ通りに次々と電車が入ってくる。だから、ホームに長時間立ち止まる人はほとんどいないし、端にいた私たちに注意を払う人もいない。とはいえ公共の場なので、今さら恥ずかしくなり、少し体を離してから八木沢さんを見上げて謝った。
「ごめんなさい、こんな場所で泣いたりして。お仕事は大丈夫ですか?」
「大丈夫、と言いたいところですが、これから戻らないと……いえ、槙木から連絡が」
「あの……槙木さんから……聞いて、ここへ?」
「ええ、そうですよ。『出かける』なら電車だろうと思って。そしてあなたなら、定期が使える路線にするんじゃないかと。ここにいなければ東京駅まで行くつもりでした」
「お金に細かくて嫌ですよね」
「いいえ、堅実だと思います」
真臣は嫌がっていたのに。八木沢さんは褒め上手だと思う。
槙木さんに改めて謝罪をしようと思って携帯端末を取り出すと、私にも新着メッセージのお知らせが来ていた。
「あ、多分私にも、同じ連絡が来てます」
私たちはお互いの端末を見せ合った。
槙木さんからの短いメッセージ。
『八木沢課長の半休ゲットだぜ』
槙木課長の尽力により、八木沢課長は無事、午後半休を手に入れたらしい。二人で同時に「おかげさまで仲直りしました」と報告して、お礼を伝えた。