結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
とりあえず改札を出るために階段を降りようとしたら、八木沢さんがごく自然に手を差し出してくれた。ちょっと照れながら、その手をぎゅっと握る。
「帰りましょうか? それとも、どこかでお昼を食べますか?」
「そういえば、昨日から全然ごはん食べてなかったです!」
「じゃあ……こんなおじさんでよければ、ご一緒させてもらえませんか?」
出会った日と同じように、八木沢さんは優しく笑ってそう言った。
まるで昨日の事みたいに鮮明に記憶が蘇って、何も言えなくなる。
初めて会ったとき、「整ってるけど地味」などと失礼なことを思っていた。いつの間にか、「最高に格好いい彼氏!」と思うようになった。色々思い出したら恥ずかしくなってくる。なんだか耳が熱いから、顔が見えないようにうつむいた。
「お腹、空きました」
「どこかで食べてから帰りましょう」
さらに下を向くように頷いて返事をして、思わずふふっと笑ったら、釣られたように彼も声を出して笑っていた。
あの日と明確に違うのは、繋いだ手と重ねてきた時間。八木沢さんのおかげで今はとても幸せ。