結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

結婚式の準備をする二人の話


 三月上旬の日曜日。
 鎌倉駅の周辺は人も車も多かった。
 まだ少し寒いが、今日はよく晴れているので、観光や散策をするにはちょうどよさそう。

 東梧さんが、「駅からそんなに離れていない」と言っていたので、そろそろ着く頃かもしれない。住宅地には大きな邸宅が並んでいる。助手席からそれらを眺めていたら、彼が前を向いたまま「着きました」と言った。でも、道の前方には小さな森しか見えなかった。
 本宅という言葉のイメージから、壁が延々と続く武家屋敷のような家を想像していたが、それらしい建物も見えない。

(まさか、道路からは見えない……? それだけ敷地が広いってこと?)

 森の入り口には黒い鉄扉があり、その手前に車を停めた東梧さんは、車をおりて手動で門を開く。敷地内に入り、また停車したので、「私が閉めます!」と言って、今度は私が車からおりた。

 今日のために買った淡いグレーのワンピースを汚さないように気をつけて、足を踏ん張って、「よいしょ」と門を引く。重たいがすぐに動いてくれて、鈍い金属音とともに門が閉まった。
 森に見えていたのはどうやら庭の一部らしい。低木も剪定されており、ここが雑木林ではないことがわかる。

「ありがとうございます。不便ですみません」
「いいえ。お庭が広くてびっくりしました!」
「昔は周辺の土地も所有していたようですが、かなり分散したそうです。といっても、相続したのは親族ですが」

 これで狭くなったんだ……世界が違う。
 でも、あの骨董品の数々や、それらを「ただの皿」などと言い切ってしまう東梧さんの金銭感覚とを考えると、彼にとっては特別でもなんでもないのだろう。


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