結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
玄関ホールは明るく華やかで、小さいが上品なシャンデリアが煌めいていた。正面には大きな階段が見えている。お伽噺に出てくるお城みたいだ。
そして、義母もお伽噺のお姫様みたいだった。
濃紺のエレガントなミディドレスをまとい、まっすぐ立っている姿はとても美しく、深窓のご令嬢だと一目で分かる。もう七十歳近いはずだが年齢を感じさせない。仕草がおっとりして、ドレスの優雅なドレープが揺れるたびに、花がこぼれるのではと思った。
「ようこそいらっしゃいました、和咲さん。そして、お帰りなさい、東梧さん」
「はじめまして。和咲と申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。どうぞ、よろしくお願いいたします」
緊張して声がかすれそうだったけれど、なんとかご挨拶をして手土産を手渡す。義母が好きだという和菓子にしたので、その箱はずっしりと重かった。
受け取ってくれるかな、拒否されたらどうしよう。
そんな一抹の不安は、彼女の朗らかな声によってあっさりと消えてしまった。
「まあ、『たき川』さんのお菓子! ありがとう、大好きなの」
「私もここのわらび餅が大好きです」
「ふわっとして美味しいのよね」
眼差しが穏やかで、私の想像する「姑」とはかけ離れていた。