結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

「えっと、一週間くらい前からです。でも全然たいしたことなくて。今日は忙しかったから疲れてめまいがして……」
「……確かめた? それとも、まだ?」

 眠そうにしていた彼女が、はっとしたように目を見開いた。潤んだ大きな瞳が可愛い。
 僕の質問の意図を、明確に理解したのだろう。沈黙のあと、彼女は不安そうな表情になり、呟くように答えた。

「まだ、です」
「病院に行きましょう! すぐ! いや、もう、この時間はどこも開いてませんね。ああ、本当にすみません。僕がもっと早く気づけばよかった!」

 彼女の不安を払拭したくて早口でまくし立ててしまった。
 おそらく僕は真顔になっている。ますます彼女を怯えさせてしまうかもしれない。
 そう思っていたのに、和咲さんは僕の顔を見て、ふわっと微笑んだ。

「東梧さん、嬉しいですか?」
「え、あ、はい。でもまずは確かめないと」
「そうですね」

 なぜ、僕が喜んでいると分かったのだろう。まだ浮かれてはいけないと、必死に抑えているつもりなのに。

「駅前に行けば二十四時間営業の薬局があります。行ってきます!」
 さすが不夜城新宿と、彼女が呟く。

 体が勝手に動いていた。急ぐ必要はないのかもしれない。でもじっとしていられるはずもなかった。
 慌てて着替えて、車のキーと財布を持って玄関へ向かったところで気づく。
 飲酒している、運転ができない。
 こんな初歩的なことにも気づかないほど、僕は動揺しているのか。
 タクシーを呼んでからエレベーターに乗り込み、正面の鏡を見て愕然とした。
 そこには、喜色を隠し切れていない自分の顔が映っていた。
 和咲さんが笑うはずだ。

 こんなにも……
 こんなにも望んでいたのかと、自分でも驚く。


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