結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 どうせ眠れないだろうし、何か食べ物を買いに行こうかな。
 都心部なので、お店はたくさんある。コンビニも徒歩圏内に何軒かある。 
 知らない街だから心細いな……と思いつつエントランスへ向かうと、なぜか八木沢さんが立っていた。

「八木沢さんもお出かけですか?」
「あの……寝具がないのではと心配になって」

「わ、私のために? ありがとうございます。でも大丈夫です。確かにないですけど、なんとかなります。布団のないところで寝るのも慣れてますし!」
「……そうですか?」
「私、ずっと祖母の介護をしてたんですが、何度も呼び出される夜は、祖母の部屋で床に転がって寝てたんですよ」

 私が笑って話すと、八木沢さんが困った顔して、「じゃあ、なおさら」と言いながら、客用の寝具を持って降りてきてくれた。
 エレベーター前で受け取ろうとすると「重たいから、部屋まで運びます」と言われ、お言葉に甘えることにした。

「ちゃんとクリーニングに出してますからね」
「わかります、サラサラですもん」

 マットレスだけでも十分だったけど、寝具があるのは素直に嬉しい。
 喜んでいると、なぜか八木沢さんはますます心配そうな顔をしていた。

「他に足りない物はないですか?」
「十分です。あ、朝ご飯がないですね。近くにコンビニありますよね。行ってきます」

「こんな遅い時間に! 若い娘さんが一人歩きしてはだめです。一緒に行きましょう」
「いえー、もう迷惑かけっぱなしなので……」

 そう断ったのに、八木沢さんは先に玄関まで行き、手を上下にパタパタさせて私を呼ぶ。
 か、可愛いな……このおじさん……。


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