結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

(冷静に……冷静になるために……今朝会った八木沢さんの顔を思い出そう……)

 クールビズの時期だからノーネクタイ、ライトグレーのシャツにネイビーのジャケットを羽織っていて、それがとても似合っていたから、(あれ、私の彼氏、おじさんだけどカッコイイな……)と思ったこと。優しい声で「おはようございます」と挨拶してくれたときの笑顔……八木沢さんは精神安定剤に等しい。落ち着く。

「要件のみ伝えるね」

 私がそう言うと、真臣は不満そうな顔をしたが、気にせず手短に伝えることにした。
 マンションを解約しないのなら、渡した違約金は返してほしいこと。手紙を送ってきたり、話しかけたりしないで欲しいこと。

「違約金は、和咲が帰ってくるなら、そのときでいいかと思って」
「何度も説明してる。もう帰らない。無理」
「僕は七瀬さんに騙されたんだよ。僕の話も聞いてほしい」

 その時、彼がオーダーしたものが届いた。見ればしっかりと定食を頼んでいた。よく食べる気になるなと呆れつつ問いかけた。

「食べていいの? 家に帰ったら……彼女……が、夕飯の準備をしているんじゃないの?」
「料理とか全然しない。そうなんだよ、和咲と全然違う」

 長々と回りくどく説明するのを、一応黙って全部聞いた。
 前半は武内さんへの不満。後半は、「排卵日なのに『大丈夫だ』と嘘をつかれた。それを信用して避妊しなかったら妊娠した。自分は悪くない」との内容だった。

 彼女ならやりかねないと思った。手段を選ばない気がする。

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