結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 私が「行きたい」と希望した芦ノ湖が見えるレストランは、期待通り眺望も料理も素敵だった。野菜中心のワンプレートランチは盛り付けもお洒落で可愛い。学生はすでに夏休みなので、大学生らしいグループや若いカップルも多かった。

 お店を出て箱根神社方面へ向かうと、道路沿いの蕎麦屋には行列ができていた。

「あ、箱根そばも食べたいです」
「美味しいですよ」
「次はおそばにします!」

 もし次に来ることがあったら、そのときも八木沢さんと一緒だったらいいな。

 年上なのに偉そうにすることもなく、なにがあっても穏やかで……こうして一緒にいるとき、素のままでいられる気がする。本当は臆病なのに、強がってばかりのみっともない自分。「お見合いを断るため」の存在だから、きっといつか役目が終わるときが来るのだろうけど、出来れば一日でも長く、一緒にいたい。

「道路を渡りますよ」

 考え事をしていたら、不意に手を差し出された。箱根神社の手前には信号がないので、車が途切れたタイミングで道路を渡ろうとしているようだ。

 私はその手を掴むのを躊躇った。手をつないだら、私の気持ちが知られてしまいそうで。そんなはずないのに。


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