結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 手を引かれて道路を渡り、第三鳥居をくぐって坂道と階段を上っていくと、箱根神社に到着した。境内は広く、参拝客も多い。さすが有名パワースポット。開運の神社らしいので、しっかりお詣りしておこう。

 本殿を参拝したあと、授与所をのぞいてみると、御札や御守が数多く並んでいた。寄せ木細工の御守もあって、いかにも箱根らしい。「寄喜(よせぎ)御守」という名前も素敵。寄せ木の模様がひとつひとつ違う。こんなに小さいのに細工は緻密で、職人さんってやっぱりすごいなぁと思わず見入った。

本宮(ほんぐう)にも参拝したかったですが、天気予報通り、これから雨になりそうです」

 八木沢さんのその言葉に空を見上げると、さっきまでなかった重そうな黒い雲が垂れていた。夕方から小雨の予報だが、山の天気は変わりやすいし、もっと強く降りそうな気がする。
 箱根神社から芦ノ湖畔まで徒歩で戻ると、強風で湖の波も高くなっていた。

「ボートも休業みたいですね」
「少し早いですが、ホテルへ移動しましょうか」
「富士山、明日は見えるといいですね」
「きっと、ホテルの部屋から見えますよ」

 八木沢さんがいつも通り笑っている横で、私は頭の中で(ホテルの! 部屋!)と復唱して、勝手に動揺していた。



< 90 / 264 >

この作品をシェア

pagetop