結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
ディナーはホテルの中にあるフレンチレストランだと聞いていたので、精一杯のおめかしをした。
持ってきたのは結婚式の二次会用に準備していたワンピース。シフォンがふんわりして、裾がフレアで可愛いなと思って買ったもの。試着しただけで、もう着る機会もないだろうと残念に思っていたから、日の目を見る機会があってよかった。
気兼ねなく着替えができたから、寝室がふたつあるのは本当に便利だ。贅沢。
私がリビングルームへ行くと、八木沢さんはすでに支度を終えていて、窓辺に立って外を見ていた。まだ雨が降り続いている。都心なら明るいはずの戸外が真っ暗で、山の上にいるんだなと改めて思い出す。
気づいた八木沢さんが振り返って私を認めて、目を細めて言った。
「ああ、綺麗です」
「……! 変じゃないです? 場違いだったらどうしようかと……」
「そんなことないです。いつも落ち着いた色ですが、そのアイボリーも華やかでよく似合っている」
綺麗と言われたのが、自分なのだとしばらく気がつかなかった。そんな眩しそうに言われたら、もしかして本当にそうかなって思ってしまう。褒め上手だ。
「あ、ありがとうございます。八木沢さんもいつもと少し違って素敵です」
笑っている八木沢さんこそ格好いい。機能重視の型ではなく、すこしタイトでスタイリッシュなスーツがよく似合っていたので、この人の隣に私がいて大丈夫かなと心配になった。
「行きましょうか」
「待ってください、心臓が出そうです」
「心臓?」
「ちょっと、動悸が」
「フレンチのマナーがわからないって心配してましたが、緊張しなくてもいつも通りで大丈夫ですよ」
いえ、緊張します。だって、八木沢さんのスーツ姿はやっぱり格好いいです!
……と心の中で叫びながら、部屋を出た。