八限目は朝葉学園図書館で
課外活動後編
商店街を入った瞬間、どうしてここが一級妖魔の活動場所なのかがすぐに分かった。
「花子さん、ここ霊力やばめだよね、、?」
「うん、カレーで例えるなら激辛に唐辛子パウダーふりかけまくりましたってとこかなー」
「、、、(なんで食べ物で例えるんだろう、、分かるような分からないような微妙なライン攻めてきてるんだよなー、、。)」
霊力が重すぎて妖怪学校に来る前の私だったらぶっ倒れてただろうな。ん?でも学校に入学しなかったら別にオバケとかは見えなかったんだよね?、、ってことは、、、そんなに影響ないってこと?
考え事をしていると花子さんがいつものような穏やかな口調で言う。
「まあ、でも今日は軽めだよ。他の活動場所の方がキッツいかなー。」
「え、これで?」まだ完全に見鬼の才に慣れてないせいか分からいけどけっこう体にクるのに。
「うん。本当に凄いとこは生徒会も参入した一大イベントっぽくなるし、負傷者だけで済めばいいのもザラなんだよねー。」
「へえー、、ってえ?」負傷者でまし、、?はい?
「じゃあ、さっそく課題始めようか。私はあっちの方行くから、また出口で合流しよ。出口は、課題終わらせてまっすぐ進めば変なドア的な物見えるからそこ開けると出れるよ。まあ、終わらせなくてもだいじょうぶなんだけど。んじゃ、またねー」
私の様子を気に留めない花子さんに焦る。
「って、ちょ、え?!今更だけど課題って何やればいい、、(ってもう走り出してるし!)」
「あー、課題はー、ここらへんの妖怪をじょーぶつさせるの!強制的にでもいいし、レベル的には4級くらいだろうからー!あ、ちょっと例外もいるけd-、、、しないでねー!!」
「、、後半聞き取れなかったんですけど。」とまあ独り言をボヤいても仕方ないよね、、。
花子さんは変な所で、雑すぎる。
ここら辺っていったって、誰もいな、、、、。いたわ。
ふっと目をやると一つのお店のシャッターが半分だけ開いて中から何か出てきた。
綺麗なセーラー服に身を包んだ美少女。、、、どっか他の学生だろうか。
私と目が合うとこちらに向かって駆けてきた。
「ご、ごめんなさい、そのー私、迷子になってしまって、、、どうすればいいかわかんなくて。」
うるうるとした瞳に桜色の唇。あーこの子苦手かも、、、。アノこと思い出しちゃう、、。
でも、迷子とかなら案内しないとだめだよね。しゃーない、適当にオバケ見つけて成仏してもらうしかないか、、。
「あ、じゃあ用事あるからちょっと遅くなっちゃうかもしれないけど、もしよければ案内しようか?」
私の提案に美少女は目を輝かせる。
「あ、ありがとうございます!私の名前は、、アヤハって言います。よろしくお願いします。」
「アヤハちゃんね。私は日那です、よろしく」ぶっきらぼうにならないように気をつけなくちゃ。面倒くさいことに巻き込まれないように適度に距離を保たなきゃ、、。コレ重要。
「あ、えっと、アヤハちゃんはどうしてここに?」、、、、アレ?なんか変な気がするのって、、なんでなんだろ。
「あ、私は、ずっと、ここ、、、、」
「え?」
「あ、私はお使いに来ていて、、でもお店が閉まってたから」
「そっか」こんな閑古鳥が鳴きまくりの商店街にお使い?しかもこんな時間に?まあでも私も人の事言えないし、見ず知らずの人からあれ、学校は?とか聞かれても面倒くさいのは私も一緒だったからまあいっか。
「アヤハちゃんはどこから来たの?」
「私は、流扇女学校から」
「流扇女学校?」聞いたことがない学校で思わず聞き返してしまったけど今は12時50分。この時間なら委員会とかの都合でそういう事もあるか。学校のお使いという事を知って自分と同じように重ねていたことに気づいた。馬鹿みたい。心の中で少し自嘲してしまう。
、、、ん?なんかおかしい。どうしてクラスの皆と一回もあってないんだろう、、?この商店街は狭いわけでは無いけど広いわけでもない。それに、もう出口に向かって20分くらい歩いているはずなのに全然つかない。ずっとループしてるみたいだ。
道も普段見慣れているし、絶対に間違えたりはしていない。それに、、、。
嫌な予感がする。こういう予感当たっちゃうんだよな。
「、、、アヤハちゃん。」
「なに?」アヤハちゃんは笑ってこっちを見る。
「一つ、、、聞いてもいい?」
「どうして、、、お使いだなんて嘘をついたの、、、?」
アヤハちゃんの顔は微笑んだまま止まっている。固まったといった方がいいかもしれない。
「どうしてそう思ったの?」否定も肯定もしない返しだったけど僅かにアヤハちゃんの目が揺らいだ気がした。
「だって、アヤハちゃん、、、、。商店街、見てない。」
「、、、、!」アヤハちゃんが驚いたように目を見開く。
「お使いっていっても、何も持ってなかったし。」
「、、、。」
「アヤハちゃんはどうして見ず知らずの私に嘘をついたの、、?」
「、、、、、バレちゃったならもおいいや。」
その言葉を聞いた途端何かが自分の視界の前方に見えた。反射的に体をひねる。石が飛んできたみたいだ。当たってたらまあやばかっただろう。
「ここで何をしてたの?」私の目線は空中に向けられていた。さっきと同じ姿のままアヤハちゃんは浮いている。
霊力量がけっこう多い。年月が経てば経つほど霊力の量も強さも比例していく。アヤハちゃんはどれほど長くここにいたのだろうか。
一人で、冬も夏も凍ってしまえばいいと思うほど寒い夜も燃え滾る熱い夜も。一人は平気でも平気じゃないんだ。
誰かと関わるからこそそう思える部分もある。
「、、、ねえ日那は何か大切なものを奪われた事はある、、、?」
アヤハちゃんが私を睨みつける。それでも私はアレがフラッシュバックして口を動かす気にはなれなかった。
「私の話を聞いてくれる、、でしょう?貴方は。その時間の分だけ生かしてあげる。初めてよ貴方が。私が生きていないって知ってもそれ以上の事を知ってくれようとしたのは。皆、みーんな、いざとなったら逃げちゃうもの。いたいけで幼い少年少女もロリコンもぜーんぶ一緒。好きだの、愛してるだの、散々希望を持たせた挙句私を見て突き放すの。泣き叫んだり、意味もない呪文なんかを唱えたり、馬鹿らしいわ。でも、そんな風にされてもすがっちゃう私は、もっとバカで惨めになるのよ」
他者に期待するなと言われても、その言葉が嘘だと分かっていても信じたいと思ってしまうのは本当に苦しい。アヤハちゃんの顔が少しゆがむ。涙が出そうになって慌てて唇をかんだ。血の味も分からなくなるくらいに。
「私ね、昔はお嬢様だったの。お父様もお母様もお友達も皆、みーんな、優しかった。でもアイツが全てを奪った。私たちの家ももお友達のくれたワンピースも全部。」
「、、、、アイツとはなんですか?」口を開けた拍子に地面に血がぽたりと落ちた。でもすぐに地面のアスファルトに重なっていき同化してしまう。
「、、誰かとは聞かないのね」
「特定の一個人に向けられれば楽なこともあるだろうし」そう答えるとアヤハちゃんは心底驚いた顔をした。
「、、、、貴方って達観してる?なんかその悟った感じ凄く嫌だわ。」
そんなことを言われてもこちらにはどうしようもできない。
「、、、、すみません」
私が謝るとアヤハちゃんは少し気まずそうな顔をした。きっと優しい人なんだろうな。
「、、、謝る必要なんかないわ。私から全てを奪ったのは、、、、、1940年頃と言えばわかる?」
「、、、、、!」1940年でここは東京。ああ、そっか。アヤハちゃんは本当に奪われたんだ、沢山の大切なものを。
「答えは分かった?」アヤハちゃんが問いてくる。
「、、、東京大空襲。それ以前のこと、詳しくは知らない、、、けど知りたいです。もしよければだけど。」
そう言って私はアヤハちゃんの眼を見る。アヤハちゃんを知るために。自分が知れる限りの事は知りたい。これは私の願いだ。
「いいわ、及第点だから教えてあげる。貴方の言う通り、誰かに向けて憎めたら怒れたら恨めたらどれほど楽だったと思う?戦争によって幸せになることなんかひとっつもなくて、それよりも失うものの方が大きくて。それでも、戦争に反対なんかすれば非国民だってののしられ、迫害されるの!わたしが何をしたっていうわけ?自分の人生で恥ずべきことなんて何もしてこなかったのに!どうして奪われなくちゃいけないのよ!どうして、、、どうして、、。」
後半の声は涙でかすれてしまっていたけれど、彼女の悲痛は伝わってきた。
「これが私の思いよ。もういいわ、聞いてくれてありがと。じゃあ、消えてね」
顔を上げて見た彼女の顔にはもう何の感情も残っていなかった。ただそこには大切なものを奪われた苦しみや今、こうして平和に生きている私たちに向けられた嫉妬と憎悪が交じり合い人の形を作っていた。
それに気づきやっと理解した。ああ、この子がここの霊源か。
「怖御(ふおん)、、、魏朱(ぎしゅ)!」
周りを見ると自分の周りを黒曜色の炎が取り囲んでいる。少し肘が炎に触れ、羽織っていたカーディガンの一部分ががじゅっと音を立てて跡形もなくなった。怖くはない。もっと怖いものは沢山あるから。
でも、少しだけ心残りがある。アヤハちゃんのように怨念となってしまった妖怪が人や妖魔を喰らうとそれによりさらに力が増してしまうのだ。私はこんなんだけど少しは霊力を増やす糧となるだろうから、それは嫌だ。でも、もうどうしようもない。今の私には見鬼の才の以外の力はない。恐らく一級妖魔であろうアヤハちゃんを止めることは不可能だ。まあでももういい。やっと楽になれる。
スッとその場に座り込み空を向き目を閉じる。あの時は出来なかったことがこんな形で叶うなんて思わなかった。
【さようなら】
私とアヤハちゃんの声が綺麗に混じったその時だった。
ゴオッ!!!!!
物凄い音で風がないだと思えば次の瞬間、炎が全て塵となって消えていた。
「なに、勝手なことしてるわけ?アンタ。」
太陽の光が反射した綺麗な黒髪に赤いスカート。
「花子さん、、!」私が驚いたのは彼女が来てくれたからだけじゃない。
彼女の服は所々穴が空いていて、血がその部分からゆっくりと垂れていた。見るだけであるはずのない自分の傷がズキンと痛む。
「ああ、これならヘーキ。たいしたことないから。」
日那の方をチラリと見るとこちらの傷を顔をゆがめながら唇を噛み締めていた。
本当に優しい子だと思う。そして自分も含めた沢山の人を傷つけやすい子だなとも。
日那が一人で抱え込むほど周りは寂しくなり、彼女自身もその倍の速さで辛さが体を蝕んでいる。
人とかかわるのは酷く恐ろしい。仲が良いと思っていたとしても違っていたり虚言だったりする。
花子自身も他者と触れ合うのは得意な方ではない。
一応の名家だから少なからず関わらねばならないものの表ではすり寄り、甘言を吐きながら裏で陰口を叩かれるなどまっぴらだ。
だけど、この化け物と化してしまった少女の言い分も分かる。完全に理解することは出来なくとも。
人間の愚かさにより化け物になってしまったのはこの少女だけではない。
現に花子が今まで倒してきた化け物の中には彼女のようなもの達が何人もいた。それはもう、数えきれないほどに。
「アヤハさん、貴方のいう事は正しいわ。でも、やってることは間違っている。」
少女の顔が引きつる。
「あ、アンタに何が分かるのよ!上級妖魔で人間たちとぬくぬく暮らしてきただけの奴らに!!!」
そんなことはないが今の彼女に自分の環境を説いても状況を悪化させるだけだ。
それより、先ほどから不可解なことがある。ここ一帯の怨霊達はとっくに仲間たちが成仏させてきたはずだ。
その証拠に結界の外に私が出た時ジン先生の怨霊名簿はこの少女を除く全てチェック済み(成仏済)になっていた。
ここの活動場所のレベルは1から5の魔力のうち3ほど。3からは一気に怨霊の強さが跳ね上がる。
つまり、そこまで危険区域ではないにしても鈍感な人間どもが近づかないぐらいには霊気を放っているということだ。
なのに、ここの怨霊達は弱い。弱すぎる。この少女が放つ霊気を含めても足りない。良くてレベル2程度。
それぐらいなら2級妖魔の練習技能大会で十分だ。ジン先生がレベル判定をミスった、、、?
いや、それはあり得ない。危険レベルをミスれば最悪の場合、何百もの妖魔が死にかねないのに。
、、?なんだかさっきから目が霞む、、、!!!もしかして、、、
後ろを振り向くと日那が青白い顔をして倒れている。まずい、、!
急いで日那を抱えて宙に浮こうとするが、足が震えて霊気のない安全な高さの所まで行くことができない。
このまま地面の近くにいるのは良くない。霊力過多になる、、!
霊力過多・・・体の中に自分が抱えられる霊気を超えて取り込んでしまうこと。最悪の場合、霊気に飲まれ死亡する。なお、人間が飲まれた場合、怨霊化・狂気化することがある。
実際に心霊スポットに行った人がおかしくなったり帰ってこなかったりするケースもある。
今のところ、顔色が悪い以外に日那の体に異変は見られなず少しホッとする。
彼女の霊気保有能力が高いせいだろうが安心もしていられない。
あと、10分もすれば私も日那も確実に霊気にのみこまれる。私の力がいつまでもつかも分からない。
一瞬でも力が途切れば即刻地面に飲み込まれるだろう。
なぜ、こんなに霊気が、、、?
顔を上げてアヤハという名の少女を見る。
その顔は全てを物語ったような醜いゆがんだ笑顔だった。
「凄いでしょう?この霊気。結構時間がかかったの。思ったより私の力が強くなくて他の怨霊達を埋めきれなくてムラがあったんだもの。」
その言葉を聞きゾッとする。
まさか、、、、こんなにも地面に、いや地面の中に霊気がたまっているのは、、、。
「お前、、、怨霊達を地面に詰めたのか!?霊気の多さからして、尋常じゃない!数百以上もの怨霊を、、」
「それが、どうかしたの?弱いのがいけないのでしょう?霊力過多になってて今じゃもう意識すらないわよ。それより、自分の心配をしなさいな。その生意気な子供を持ち上げているせいで自分の力のほとんどをつかいきってるじゃない。その子を見放せば貴方ひとりぐらいは助かったでしょうに。」
「そんなこと、、、。」するわけない。そう言いたいのに言葉が続かない。息をするので精いっぱいだ。
もちろん、いつもの花子なら日那を守りながらでも絶対に勝てる。
ケガさえ負っていなければ。
先ほど日那の元に来る前に一人の少年が結界の中に入り込んでしまっていた。
その少年をかばい怨霊を倒した時、敵の攻撃をまともに受けてしまったのだ。
息が続かない。苦しい。
もう、だめ、、。
フッと力が抜け日那を抱えたまま地面に引き寄せられる。
だが、私は地面に着かず、誰かに抱えられてた。
誰、、、?日那はどうなった、、?
疑問がいくつも浮かぶ中、その暖かさに包まれ安心した瞬間。意識がすうと遠のき花子は気を失った。
「、、、、お前、花子に何をした。」。
「な、なによ!なにもしてな、、」
「そうか、もういい。お前のような低劣極まりない下等生物は口も聞けぬのだろう。ならば体に問うてやる。呪技・灯獄喰。」
「は?なに言って、、、、あっ、ギャアぁぁぁぁあっぁあああぁあ!熱い!ここから出して!」
何よ、、コレ!!!!なんの術よ、、!
アヤハの体は瞬く間に立方体の術の中に取り込まれ鎖に繋がれた。術を発動したのは薊。
花子の霊気を手繰り寄せここまでたどり着いたのだった。
「あまりその中でもがくのは勧めない。逃げようとすればするほど鎖の強度は強くなり締め付けもきつくなる」
灯獄喰(とうごくばみ)・・・術の対象者に合わせて造られた燃え滾る箱の中に閉じ込め霊気を吸い取り強制的に輪廻道に強制送還させる術。仮に抜け出せたとしても、術の発動者分の力が対象者の体から抜けるため、術を発動された者の殆どが死に至る。
熱い、熱い、、、!!!まるであの時のようだわ、、、、!!!
〈数十年前〉
(お母さま、、!!お父さまあ、、!)(あやは、逃げるんだ!早く!あっ、ああああ!)
(いや!お母さまたちを置いていけない!)
(熱い、、どうして、?こんなことに、、?私たちがなにをしたの、、?憎い、憎い、、許さない、、、許さない!!!!)
「わ、、私が悪いんじゃない!!私が、わたしが、、アアアアっ!!痛い、熱い!」
「耳が使えないのか?先ほどいったであろうが。」薊が心底呆れた目でにアヤハを見つめる。
「う、うるさい!そこのガキとアバズレが悪いのよ!主人公ぶって気持ち悪いったら、、、」
そこから先のアヤハの言葉は紡げなかった。
薊が急激に術を強めたせいで喉にかかっていた鎖がアヤハの喉をつぶしたから。
「ああ、もういいよ。自分で自分の首を絞める愚か者が花子の事を評価するなんて反吐が出る。」
アヤハはそれでもなお言葉を発そうとするものの痛みに身をよじらせ、それによりまた強く締め付けられる。
結界の張られた商店街の隅でただアヤハを燃やす炎の箱が辺りを照らしていた。
「ん、、、」日那がゆっくりと身を起こすと先ほど花子たちと居た場所では無かった。
ここどこ、、?さっき虚ろではあったけど意識はあった。花子さんではない別の誰かがきたことしか分からなかったけど。
少しふらふらするけど動ける。結界の出口ってどこだっけ、、?
道を確認しようと顔を上げ周りを見回す。
「っ、、!」数十メートル先の古びた無人アパートの上に緋色の立方体が浮いている。
なに、、アレ、、、。目を凝らしてよく見ると中に人型のなにかが入っている。
あれがなんにせよ思わぬ異常事態が起きてることは確かだ。私はまだふらふらしている足を精一杯動かす。
あの妖力源は誰だ。神経をあちらに集中させる。おそらくアヤハちゃんのものではない。彼女にそこまでの霊力は感じられなかった。
「確か、、まっすぐ行くとお豆腐屋があってそこの角を曲がったところがあの廃アパートだったはず、、!」
アパートの目印となる豆腐屋の角を曲がり日那は思わず絶句した。
さきほど日那がみた時よりも緋色の立方体は大きさを増し、中にいた人型も小さくなっていた。
「なにやってんのよ、、薊!!!」
人型のソレがアヤハちゃんだと気づくのにそう時間はかからなかった。
薊は花子さんを大事そうに抱えながら日那の方を一瞥する。
「ああ、日那さん。ケガの方はどう?」そう聞いてくる薊は笑顔だったけど、乾いていた。
本当はきっとどうでも良いのだろう。今の彼には花子さんしか見えていない。
「もう、大丈夫です、、。転送してくれたの、、薊だよね?ありがとう。」
「なあんだ、だったらさっさと結界の外に行けばよかったのに。17文字無駄にした。」
凍てつくような声でそう言い放った後、日那に興味を失ったようにアヤハの方を見やる。
「うーん、なかなかシブトイ。ま、そうでなきゃ相手になんないもんね。」
きっと私に向けたものじゃなく独りごと。あっちが私を認識しないならこっちからけしかければいい。
「解術・旧時遡行」
私が手を灯獄喰に向けると本当にゆっくりとだけど緋色の立方体が小さくなっていく。
(よし、、できた!!)
まだアヤハちゃんの体は原型を保ってる。だから、今なら間に合う。絶対に間に合わせて見せる。
徐々に小さくなっていく灯獄喰に気づいた薊がこちらを睨みつける。
「なんのつもりだ、お前。邪魔するな、たかが人間の分際で。」
「邪魔するわよ。助けてくれたことには感謝するけど今のあなたのやり方は絶対に間違ってる。強制転移は本当に手が付けられなくなった時のものでしょうが」
「手が付けられなくなったと判断するのは我ら一級妖魔の独断だ。花子に守られたお前如きが口を出す事じゃない。去れ」
薊が右手を自分に向ける。あ、これヤバイかも。でもどうせ死ぬつもりだったし自分の脆くて浅はかな信念でも貫き通したい。
今のアヤハちゃんなら十分弱体化してるから暴走の心配はない。だから、あの地獄から出てほしい。
薊のいう事も間違ってない。実際、私のせいで花子さんは勿論、薊くんにも迷惑をかけた。
それは申し訳ないけれど、だからと言って発言権がないのはおかしい。
「ここまで来て去るなんて思わないでしょ?バカなのアンタ。人間如きに邪魔されて残念ね」
薊の顔が怒気を帯びる。
「お前も消えろ。呪技 灯獄喰。」
うそ、二個もだせんの?アイツ。あの術、一級だよ?
私の周りに鎖が絡みつく。それでも解術はやめない。鎖が閉めついて体が痛い。もう、、、無理、、。あと少しだったのに、、、。
「解術・破塊堰(はかいせき)」
破塊堰(はかいせき)・・・術そのものを破壊するもの。威力がすさまじい為、使うのにも相当の鍛錬が必要である。
鎖が完全に私をおおう直前、鎖は全てからりとあっけらかんとした音を立ててはじけ飛んだ。
薊が舌打ちする。「くんなよ、お前。めんどくせーなあ」
今のは、、、誰だ、、?ふと前に艶やかな衣が見える。あの着物は、まさか、、!
「薊ィ、いったやろ?こっちに手出しすんなって。そやけどアンタがその気なら俺も買うたるわ。ケンカ」
「へえ、コウ珍しいなあ。いつもは俺が売っても買うてくれへんのに。でも、今はやめとくわ。お前より花子の方が大事なんでな。後でたっぷり相手してやるわ。そこ、どきい。邪魔や」
薊くんはそう言うと、自分の腕の中にある花子さんを壊れ物でも扱うかのように優しく抱きしめる。
「別にアンタと遊びたいわけじゃない。日那に危が加わるのを止めたいだけや。相変わらず理解力が足りひんなあ、、薊。自意識過剰はモテへんで」
コウがクスリと軽い笑みを見せる。目は笑っていなかった。
コウの発言に薊くんも負けじと言い返す。
「は?去年のバレンタインチョコは俺の方が一個多かったで。俺が267個、お前が266個でな。」
へえー1個差ー、、、。は?266個?桁が1つ、いや2つ多くない?
「チョコ?ああ、薊が妹から2つ貰ったって言うとったやつやな」
てことは、義理チョコなのでは、、?ってチョコの話してる場合じゃないじゃん!!!
早く術を解かなきゃ、、!
さっきよりもペースは遅いけど徐々に解術出来てるみたいだ。
ギュンッ!!
私のすぐ横を炎の矢が霞め、フッと消える。あっぶな、、!!!
後ろを振り向くとコウが薊を私に近づかせまいと立ちはだかっていた。
「まだ邪魔する気か、コウ」
「俺はあの弱小怨霊なんか興味あらへん。日那がケガすんのがいやなんや。」
もう少しで、終わる、、!コウ、ありがとう、、!
キチ、、ガチチチ、、、、パリン、、!!!
薊が空を見上げてももう遅い。すでに術は日那の手により解除されていたのだから。
ぽと、と地面に落ちるアヤハに向かって駆けだす。ほんの数メートル先なのに足が重くて遠く感じる。
「アヤハちゃん、、!!」
日那の腕の中のアヤハを見て衝撃を受ける。
小さい、、!!先ほどまでの姿とはうって変わって高校生どころか中学生にも見えない。
こんな、、小さい体で、、、今まで戦ってきたわけ、、、、、、?
「お前、、、許さない!!!!!!!」
ハッとして後ろを振り向くと薊がこちらに向けて術を放っていた。
「呪術。双雲昇華!」
薊の手から2つの白い玉が放たれまっすぐこちらに向かってくる。
やばい、逃げなきゃ、、、
コンっ
その時、私の体がグラつく。足元の石に躓いたのが分かった。
「日那!」
コウが私の方に駆けてくる。ダメだよコウ、背を向けたら、、
その一瞬の機会を薊は見逃さなかった。
私の眼にはコウとその後ろに迫る朱い炎が見えた。
「コウ、じゃあな」
「薊、お前、、!」
ああ、どうしよう。私のせいでまた、、、、。コウに手を伸ばすが届くはずもなかった。
「コウ、、、、、!!」
【バン!!!】
何かがぶつかる音がした。
恐る恐る目を開ける。「!!!」
「お外でのおいたは御法度ですよぉ?薊さん♡」
そこに居たのは茶髪の少女。薊の放った双雲昇華を自分の体に吸収していた。
あんなの体に当たったら並みの妖怪じゃ吹き飛ぶくらいなのに、、。それをいとも簡単に、、。
「今日の目的は課外活動であってお外遊びではないんですよ?理解してますかぁ??」
少女は薊を煽るように微笑みながら言う。いや違う、本気で怒ってるみたいだ。
「いや、これは、、、その、、、」
「言い訳とかはいりませんからちゃんと説明してくれます?一級魔妖ですよねぇ、貴方」
薊の顔がだんだん青ざめていくのが分かる。
「あの馬鹿が邪魔したから」
そもそもこの子は何者なんだ??霊力が段違いに強いって以外分からない。
「あー、、、やっべ。」
コウの顔が引きつってる。知ってるのか、この少女を。
コウが状況をよく理解していない私の目線に気づいたのか、
「ああ、あの女の子、ジン先生ね。ガチギレするとああなるの。」と苦笑しながら言った。
「、、、、え?」私はもう一度少女と記憶の中の先生を思い浮かべ比べる。
「えええええーーーーーーー!!??」
美少女もといジン先生はなおも言葉を薊に投げかける。
「はやくしてくれますか。もう結界解いて、学校に戻りたいので。」
「ぼ、僕はあの怨霊を成仏させようと、、。」
ジン先生はふうと深くため息をつくとコウに命令を下した。
「コウさん。1級妖魔の規約暗唱してくださいます?薊さんがたった3つのルールをおぼえていらっしゃらないようなので」
コウはふうと短く息を吐いた。
「第一条、一級妖魔は階級が低いものをイジメてはならない。もし正当な理由がある場合は拘束し、生徒会に必要書類と共に差し出す。第二条、決して悪霊化してはならない。もしそうなった場合はその一族が責任を持って即刻処分し対象者の首を生徒会に捧げる。」
「ええ、合っています。では、最後の項をおねがいします。」
「、、最後に一級妖魔同士での外での諍いはいかなる理由があろうとも決して認めない。感情的になり己の制御が出来ぬ者たちは第三体育館で相応の罰を与えるものとする。、、、、、以上です。」
言い終わった後コウはぽそりと呟いた。
「、、あーやっちゃった。」
コウの暗唱を聞き終わったジン先生は満面の笑みを薊に向けた。
「では、そういうことなので。また後程、第三体育館でお会いしましょうね♡」
「いや、それはちょっとまっ、、!!!」
薊が言い終わる前に術がかかった。
「問答無用です、薊さん。」
地面から金属で出来た大きさがバラバラの糸が蔓のように薊の体を締め上げる。
「あ!薊が捕まってるー」
「それでは皆さん」
「花子さん、ここ霊力やばめだよね、、?」
「うん、カレーで例えるなら激辛に唐辛子パウダーふりかけまくりましたってとこかなー」
「、、、(なんで食べ物で例えるんだろう、、分かるような分からないような微妙なライン攻めてきてるんだよなー、、。)」
霊力が重すぎて妖怪学校に来る前の私だったらぶっ倒れてただろうな。ん?でも学校に入学しなかったら別にオバケとかは見えなかったんだよね?、、ってことは、、、そんなに影響ないってこと?
考え事をしていると花子さんがいつものような穏やかな口調で言う。
「まあ、でも今日は軽めだよ。他の活動場所の方がキッツいかなー。」
「え、これで?」まだ完全に見鬼の才に慣れてないせいか分からいけどけっこう体にクるのに。
「うん。本当に凄いとこは生徒会も参入した一大イベントっぽくなるし、負傷者だけで済めばいいのもザラなんだよねー。」
「へえー、、ってえ?」負傷者でまし、、?はい?
「じゃあ、さっそく課題始めようか。私はあっちの方行くから、また出口で合流しよ。出口は、課題終わらせてまっすぐ進めば変なドア的な物見えるからそこ開けると出れるよ。まあ、終わらせなくてもだいじょうぶなんだけど。んじゃ、またねー」
私の様子を気に留めない花子さんに焦る。
「って、ちょ、え?!今更だけど課題って何やればいい、、(ってもう走り出してるし!)」
「あー、課題はー、ここらへんの妖怪をじょーぶつさせるの!強制的にでもいいし、レベル的には4級くらいだろうからー!あ、ちょっと例外もいるけd-、、、しないでねー!!」
「、、後半聞き取れなかったんですけど。」とまあ独り言をボヤいても仕方ないよね、、。
花子さんは変な所で、雑すぎる。
ここら辺っていったって、誰もいな、、、、。いたわ。
ふっと目をやると一つのお店のシャッターが半分だけ開いて中から何か出てきた。
綺麗なセーラー服に身を包んだ美少女。、、、どっか他の学生だろうか。
私と目が合うとこちらに向かって駆けてきた。
「ご、ごめんなさい、そのー私、迷子になってしまって、、、どうすればいいかわかんなくて。」
うるうるとした瞳に桜色の唇。あーこの子苦手かも、、、。アノこと思い出しちゃう、、。
でも、迷子とかなら案内しないとだめだよね。しゃーない、適当にオバケ見つけて成仏してもらうしかないか、、。
「あ、じゃあ用事あるからちょっと遅くなっちゃうかもしれないけど、もしよければ案内しようか?」
私の提案に美少女は目を輝かせる。
「あ、ありがとうございます!私の名前は、、アヤハって言います。よろしくお願いします。」
「アヤハちゃんね。私は日那です、よろしく」ぶっきらぼうにならないように気をつけなくちゃ。面倒くさいことに巻き込まれないように適度に距離を保たなきゃ、、。コレ重要。
「あ、えっと、アヤハちゃんはどうしてここに?」、、、、アレ?なんか変な気がするのって、、なんでなんだろ。
「あ、私は、ずっと、ここ、、、、」
「え?」
「あ、私はお使いに来ていて、、でもお店が閉まってたから」
「そっか」こんな閑古鳥が鳴きまくりの商店街にお使い?しかもこんな時間に?まあでも私も人の事言えないし、見ず知らずの人からあれ、学校は?とか聞かれても面倒くさいのは私も一緒だったからまあいっか。
「アヤハちゃんはどこから来たの?」
「私は、流扇女学校から」
「流扇女学校?」聞いたことがない学校で思わず聞き返してしまったけど今は12時50分。この時間なら委員会とかの都合でそういう事もあるか。学校のお使いという事を知って自分と同じように重ねていたことに気づいた。馬鹿みたい。心の中で少し自嘲してしまう。
、、、ん?なんかおかしい。どうしてクラスの皆と一回もあってないんだろう、、?この商店街は狭いわけでは無いけど広いわけでもない。それに、もう出口に向かって20分くらい歩いているはずなのに全然つかない。ずっとループしてるみたいだ。
道も普段見慣れているし、絶対に間違えたりはしていない。それに、、、。
嫌な予感がする。こういう予感当たっちゃうんだよな。
「、、、アヤハちゃん。」
「なに?」アヤハちゃんは笑ってこっちを見る。
「一つ、、、聞いてもいい?」
「どうして、、、お使いだなんて嘘をついたの、、、?」
アヤハちゃんの顔は微笑んだまま止まっている。固まったといった方がいいかもしれない。
「どうしてそう思ったの?」否定も肯定もしない返しだったけど僅かにアヤハちゃんの目が揺らいだ気がした。
「だって、アヤハちゃん、、、、。商店街、見てない。」
「、、、、!」アヤハちゃんが驚いたように目を見開く。
「お使いっていっても、何も持ってなかったし。」
「、、、。」
「アヤハちゃんはどうして見ず知らずの私に嘘をついたの、、?」
「、、、、、バレちゃったならもおいいや。」
その言葉を聞いた途端何かが自分の視界の前方に見えた。反射的に体をひねる。石が飛んできたみたいだ。当たってたらまあやばかっただろう。
「ここで何をしてたの?」私の目線は空中に向けられていた。さっきと同じ姿のままアヤハちゃんは浮いている。
霊力量がけっこう多い。年月が経てば経つほど霊力の量も強さも比例していく。アヤハちゃんはどれほど長くここにいたのだろうか。
一人で、冬も夏も凍ってしまえばいいと思うほど寒い夜も燃え滾る熱い夜も。一人は平気でも平気じゃないんだ。
誰かと関わるからこそそう思える部分もある。
「、、、ねえ日那は何か大切なものを奪われた事はある、、、?」
アヤハちゃんが私を睨みつける。それでも私はアレがフラッシュバックして口を動かす気にはなれなかった。
「私の話を聞いてくれる、、でしょう?貴方は。その時間の分だけ生かしてあげる。初めてよ貴方が。私が生きていないって知ってもそれ以上の事を知ってくれようとしたのは。皆、みーんな、いざとなったら逃げちゃうもの。いたいけで幼い少年少女もロリコンもぜーんぶ一緒。好きだの、愛してるだの、散々希望を持たせた挙句私を見て突き放すの。泣き叫んだり、意味もない呪文なんかを唱えたり、馬鹿らしいわ。でも、そんな風にされてもすがっちゃう私は、もっとバカで惨めになるのよ」
他者に期待するなと言われても、その言葉が嘘だと分かっていても信じたいと思ってしまうのは本当に苦しい。アヤハちゃんの顔が少しゆがむ。涙が出そうになって慌てて唇をかんだ。血の味も分からなくなるくらいに。
「私ね、昔はお嬢様だったの。お父様もお母様もお友達も皆、みーんな、優しかった。でもアイツが全てを奪った。私たちの家ももお友達のくれたワンピースも全部。」
「、、、、アイツとはなんですか?」口を開けた拍子に地面に血がぽたりと落ちた。でもすぐに地面のアスファルトに重なっていき同化してしまう。
「、、誰かとは聞かないのね」
「特定の一個人に向けられれば楽なこともあるだろうし」そう答えるとアヤハちゃんは心底驚いた顔をした。
「、、、、貴方って達観してる?なんかその悟った感じ凄く嫌だわ。」
そんなことを言われてもこちらにはどうしようもできない。
「、、、、すみません」
私が謝るとアヤハちゃんは少し気まずそうな顔をした。きっと優しい人なんだろうな。
「、、、謝る必要なんかないわ。私から全てを奪ったのは、、、、、1940年頃と言えばわかる?」
「、、、、、!」1940年でここは東京。ああ、そっか。アヤハちゃんは本当に奪われたんだ、沢山の大切なものを。
「答えは分かった?」アヤハちゃんが問いてくる。
「、、、東京大空襲。それ以前のこと、詳しくは知らない、、、けど知りたいです。もしよければだけど。」
そう言って私はアヤハちゃんの眼を見る。アヤハちゃんを知るために。自分が知れる限りの事は知りたい。これは私の願いだ。
「いいわ、及第点だから教えてあげる。貴方の言う通り、誰かに向けて憎めたら怒れたら恨めたらどれほど楽だったと思う?戦争によって幸せになることなんかひとっつもなくて、それよりも失うものの方が大きくて。それでも、戦争に反対なんかすれば非国民だってののしられ、迫害されるの!わたしが何をしたっていうわけ?自分の人生で恥ずべきことなんて何もしてこなかったのに!どうして奪われなくちゃいけないのよ!どうして、、、どうして、、。」
後半の声は涙でかすれてしまっていたけれど、彼女の悲痛は伝わってきた。
「これが私の思いよ。もういいわ、聞いてくれてありがと。じゃあ、消えてね」
顔を上げて見た彼女の顔にはもう何の感情も残っていなかった。ただそこには大切なものを奪われた苦しみや今、こうして平和に生きている私たちに向けられた嫉妬と憎悪が交じり合い人の形を作っていた。
それに気づきやっと理解した。ああ、この子がここの霊源か。
「怖御(ふおん)、、、魏朱(ぎしゅ)!」
周りを見ると自分の周りを黒曜色の炎が取り囲んでいる。少し肘が炎に触れ、羽織っていたカーディガンの一部分ががじゅっと音を立てて跡形もなくなった。怖くはない。もっと怖いものは沢山あるから。
でも、少しだけ心残りがある。アヤハちゃんのように怨念となってしまった妖怪が人や妖魔を喰らうとそれによりさらに力が増してしまうのだ。私はこんなんだけど少しは霊力を増やす糧となるだろうから、それは嫌だ。でも、もうどうしようもない。今の私には見鬼の才の以外の力はない。恐らく一級妖魔であろうアヤハちゃんを止めることは不可能だ。まあでももういい。やっと楽になれる。
スッとその場に座り込み空を向き目を閉じる。あの時は出来なかったことがこんな形で叶うなんて思わなかった。
【さようなら】
私とアヤハちゃんの声が綺麗に混じったその時だった。
ゴオッ!!!!!
物凄い音で風がないだと思えば次の瞬間、炎が全て塵となって消えていた。
「なに、勝手なことしてるわけ?アンタ。」
太陽の光が反射した綺麗な黒髪に赤いスカート。
「花子さん、、!」私が驚いたのは彼女が来てくれたからだけじゃない。
彼女の服は所々穴が空いていて、血がその部分からゆっくりと垂れていた。見るだけであるはずのない自分の傷がズキンと痛む。
「ああ、これならヘーキ。たいしたことないから。」
日那の方をチラリと見るとこちらの傷を顔をゆがめながら唇を噛み締めていた。
本当に優しい子だと思う。そして自分も含めた沢山の人を傷つけやすい子だなとも。
日那が一人で抱え込むほど周りは寂しくなり、彼女自身もその倍の速さで辛さが体を蝕んでいる。
人とかかわるのは酷く恐ろしい。仲が良いと思っていたとしても違っていたり虚言だったりする。
花子自身も他者と触れ合うのは得意な方ではない。
一応の名家だから少なからず関わらねばならないものの表ではすり寄り、甘言を吐きながら裏で陰口を叩かれるなどまっぴらだ。
だけど、この化け物と化してしまった少女の言い分も分かる。完全に理解することは出来なくとも。
人間の愚かさにより化け物になってしまったのはこの少女だけではない。
現に花子が今まで倒してきた化け物の中には彼女のようなもの達が何人もいた。それはもう、数えきれないほどに。
「アヤハさん、貴方のいう事は正しいわ。でも、やってることは間違っている。」
少女の顔が引きつる。
「あ、アンタに何が分かるのよ!上級妖魔で人間たちとぬくぬく暮らしてきただけの奴らに!!!」
そんなことはないが今の彼女に自分の環境を説いても状況を悪化させるだけだ。
それより、先ほどから不可解なことがある。ここ一帯の怨霊達はとっくに仲間たちが成仏させてきたはずだ。
その証拠に結界の外に私が出た時ジン先生の怨霊名簿はこの少女を除く全てチェック済み(成仏済)になっていた。
ここの活動場所のレベルは1から5の魔力のうち3ほど。3からは一気に怨霊の強さが跳ね上がる。
つまり、そこまで危険区域ではないにしても鈍感な人間どもが近づかないぐらいには霊気を放っているということだ。
なのに、ここの怨霊達は弱い。弱すぎる。この少女が放つ霊気を含めても足りない。良くてレベル2程度。
それぐらいなら2級妖魔の練習技能大会で十分だ。ジン先生がレベル判定をミスった、、、?
いや、それはあり得ない。危険レベルをミスれば最悪の場合、何百もの妖魔が死にかねないのに。
、、?なんだかさっきから目が霞む、、、!!!もしかして、、、
後ろを振り向くと日那が青白い顔をして倒れている。まずい、、!
急いで日那を抱えて宙に浮こうとするが、足が震えて霊気のない安全な高さの所まで行くことができない。
このまま地面の近くにいるのは良くない。霊力過多になる、、!
霊力過多・・・体の中に自分が抱えられる霊気を超えて取り込んでしまうこと。最悪の場合、霊気に飲まれ死亡する。なお、人間が飲まれた場合、怨霊化・狂気化することがある。
実際に心霊スポットに行った人がおかしくなったり帰ってこなかったりするケースもある。
今のところ、顔色が悪い以外に日那の体に異変は見られなず少しホッとする。
彼女の霊気保有能力が高いせいだろうが安心もしていられない。
あと、10分もすれば私も日那も確実に霊気にのみこまれる。私の力がいつまでもつかも分からない。
一瞬でも力が途切れば即刻地面に飲み込まれるだろう。
なぜ、こんなに霊気が、、、?
顔を上げてアヤハという名の少女を見る。
その顔は全てを物語ったような醜いゆがんだ笑顔だった。
「凄いでしょう?この霊気。結構時間がかかったの。思ったより私の力が強くなくて他の怨霊達を埋めきれなくてムラがあったんだもの。」
その言葉を聞きゾッとする。
まさか、、、、こんなにも地面に、いや地面の中に霊気がたまっているのは、、、。
「お前、、、怨霊達を地面に詰めたのか!?霊気の多さからして、尋常じゃない!数百以上もの怨霊を、、」
「それが、どうかしたの?弱いのがいけないのでしょう?霊力過多になってて今じゃもう意識すらないわよ。それより、自分の心配をしなさいな。その生意気な子供を持ち上げているせいで自分の力のほとんどをつかいきってるじゃない。その子を見放せば貴方ひとりぐらいは助かったでしょうに。」
「そんなこと、、、。」するわけない。そう言いたいのに言葉が続かない。息をするので精いっぱいだ。
もちろん、いつもの花子なら日那を守りながらでも絶対に勝てる。
ケガさえ負っていなければ。
先ほど日那の元に来る前に一人の少年が結界の中に入り込んでしまっていた。
その少年をかばい怨霊を倒した時、敵の攻撃をまともに受けてしまったのだ。
息が続かない。苦しい。
もう、だめ、、。
フッと力が抜け日那を抱えたまま地面に引き寄せられる。
だが、私は地面に着かず、誰かに抱えられてた。
誰、、、?日那はどうなった、、?
疑問がいくつも浮かぶ中、その暖かさに包まれ安心した瞬間。意識がすうと遠のき花子は気を失った。
「、、、、お前、花子に何をした。」。
「な、なによ!なにもしてな、、」
「そうか、もういい。お前のような低劣極まりない下等生物は口も聞けぬのだろう。ならば体に問うてやる。呪技・灯獄喰。」
「は?なに言って、、、、あっ、ギャアぁぁぁぁあっぁあああぁあ!熱い!ここから出して!」
何よ、、コレ!!!!なんの術よ、、!
アヤハの体は瞬く間に立方体の術の中に取り込まれ鎖に繋がれた。術を発動したのは薊。
花子の霊気を手繰り寄せここまでたどり着いたのだった。
「あまりその中でもがくのは勧めない。逃げようとすればするほど鎖の強度は強くなり締め付けもきつくなる」
灯獄喰(とうごくばみ)・・・術の対象者に合わせて造られた燃え滾る箱の中に閉じ込め霊気を吸い取り強制的に輪廻道に強制送還させる術。仮に抜け出せたとしても、術の発動者分の力が対象者の体から抜けるため、術を発動された者の殆どが死に至る。
熱い、熱い、、、!!!まるであの時のようだわ、、、、!!!
〈数十年前〉
(お母さま、、!!お父さまあ、、!)(あやは、逃げるんだ!早く!あっ、ああああ!)
(いや!お母さまたちを置いていけない!)
(熱い、、どうして、?こんなことに、、?私たちがなにをしたの、、?憎い、憎い、、許さない、、、許さない!!!!)
「わ、、私が悪いんじゃない!!私が、わたしが、、アアアアっ!!痛い、熱い!」
「耳が使えないのか?先ほどいったであろうが。」薊が心底呆れた目でにアヤハを見つめる。
「う、うるさい!そこのガキとアバズレが悪いのよ!主人公ぶって気持ち悪いったら、、、」
そこから先のアヤハの言葉は紡げなかった。
薊が急激に術を強めたせいで喉にかかっていた鎖がアヤハの喉をつぶしたから。
「ああ、もういいよ。自分で自分の首を絞める愚か者が花子の事を評価するなんて反吐が出る。」
アヤハはそれでもなお言葉を発そうとするものの痛みに身をよじらせ、それによりまた強く締め付けられる。
結界の張られた商店街の隅でただアヤハを燃やす炎の箱が辺りを照らしていた。
「ん、、、」日那がゆっくりと身を起こすと先ほど花子たちと居た場所では無かった。
ここどこ、、?さっき虚ろではあったけど意識はあった。花子さんではない別の誰かがきたことしか分からなかったけど。
少しふらふらするけど動ける。結界の出口ってどこだっけ、、?
道を確認しようと顔を上げ周りを見回す。
「っ、、!」数十メートル先の古びた無人アパートの上に緋色の立方体が浮いている。
なに、、アレ、、、。目を凝らしてよく見ると中に人型のなにかが入っている。
あれがなんにせよ思わぬ異常事態が起きてることは確かだ。私はまだふらふらしている足を精一杯動かす。
あの妖力源は誰だ。神経をあちらに集中させる。おそらくアヤハちゃんのものではない。彼女にそこまでの霊力は感じられなかった。
「確か、、まっすぐ行くとお豆腐屋があってそこの角を曲がったところがあの廃アパートだったはず、、!」
アパートの目印となる豆腐屋の角を曲がり日那は思わず絶句した。
さきほど日那がみた時よりも緋色の立方体は大きさを増し、中にいた人型も小さくなっていた。
「なにやってんのよ、、薊!!!」
人型のソレがアヤハちゃんだと気づくのにそう時間はかからなかった。
薊は花子さんを大事そうに抱えながら日那の方を一瞥する。
「ああ、日那さん。ケガの方はどう?」そう聞いてくる薊は笑顔だったけど、乾いていた。
本当はきっとどうでも良いのだろう。今の彼には花子さんしか見えていない。
「もう、大丈夫です、、。転送してくれたの、、薊だよね?ありがとう。」
「なあんだ、だったらさっさと結界の外に行けばよかったのに。17文字無駄にした。」
凍てつくような声でそう言い放った後、日那に興味を失ったようにアヤハの方を見やる。
「うーん、なかなかシブトイ。ま、そうでなきゃ相手になんないもんね。」
きっと私に向けたものじゃなく独りごと。あっちが私を認識しないならこっちからけしかければいい。
「解術・旧時遡行」
私が手を灯獄喰に向けると本当にゆっくりとだけど緋色の立方体が小さくなっていく。
(よし、、できた!!)
まだアヤハちゃんの体は原型を保ってる。だから、今なら間に合う。絶対に間に合わせて見せる。
徐々に小さくなっていく灯獄喰に気づいた薊がこちらを睨みつける。
「なんのつもりだ、お前。邪魔するな、たかが人間の分際で。」
「邪魔するわよ。助けてくれたことには感謝するけど今のあなたのやり方は絶対に間違ってる。強制転移は本当に手が付けられなくなった時のものでしょうが」
「手が付けられなくなったと判断するのは我ら一級妖魔の独断だ。花子に守られたお前如きが口を出す事じゃない。去れ」
薊が右手を自分に向ける。あ、これヤバイかも。でもどうせ死ぬつもりだったし自分の脆くて浅はかな信念でも貫き通したい。
今のアヤハちゃんなら十分弱体化してるから暴走の心配はない。だから、あの地獄から出てほしい。
薊のいう事も間違ってない。実際、私のせいで花子さんは勿論、薊くんにも迷惑をかけた。
それは申し訳ないけれど、だからと言って発言権がないのはおかしい。
「ここまで来て去るなんて思わないでしょ?バカなのアンタ。人間如きに邪魔されて残念ね」
薊の顔が怒気を帯びる。
「お前も消えろ。呪技 灯獄喰。」
うそ、二個もだせんの?アイツ。あの術、一級だよ?
私の周りに鎖が絡みつく。それでも解術はやめない。鎖が閉めついて体が痛い。もう、、、無理、、。あと少しだったのに、、、。
「解術・破塊堰(はかいせき)」
破塊堰(はかいせき)・・・術そのものを破壊するもの。威力がすさまじい為、使うのにも相当の鍛錬が必要である。
鎖が完全に私をおおう直前、鎖は全てからりとあっけらかんとした音を立ててはじけ飛んだ。
薊が舌打ちする。「くんなよ、お前。めんどくせーなあ」
今のは、、、誰だ、、?ふと前に艶やかな衣が見える。あの着物は、まさか、、!
「薊ィ、いったやろ?こっちに手出しすんなって。そやけどアンタがその気なら俺も買うたるわ。ケンカ」
「へえ、コウ珍しいなあ。いつもは俺が売っても買うてくれへんのに。でも、今はやめとくわ。お前より花子の方が大事なんでな。後でたっぷり相手してやるわ。そこ、どきい。邪魔や」
薊くんはそう言うと、自分の腕の中にある花子さんを壊れ物でも扱うかのように優しく抱きしめる。
「別にアンタと遊びたいわけじゃない。日那に危が加わるのを止めたいだけや。相変わらず理解力が足りひんなあ、、薊。自意識過剰はモテへんで」
コウがクスリと軽い笑みを見せる。目は笑っていなかった。
コウの発言に薊くんも負けじと言い返す。
「は?去年のバレンタインチョコは俺の方が一個多かったで。俺が267個、お前が266個でな。」
へえー1個差ー、、、。は?266個?桁が1つ、いや2つ多くない?
「チョコ?ああ、薊が妹から2つ貰ったって言うとったやつやな」
てことは、義理チョコなのでは、、?ってチョコの話してる場合じゃないじゃん!!!
早く術を解かなきゃ、、!
さっきよりもペースは遅いけど徐々に解術出来てるみたいだ。
ギュンッ!!
私のすぐ横を炎の矢が霞め、フッと消える。あっぶな、、!!!
後ろを振り向くとコウが薊を私に近づかせまいと立ちはだかっていた。
「まだ邪魔する気か、コウ」
「俺はあの弱小怨霊なんか興味あらへん。日那がケガすんのがいやなんや。」
もう少しで、終わる、、!コウ、ありがとう、、!
キチ、、ガチチチ、、、、パリン、、!!!
薊が空を見上げてももう遅い。すでに術は日那の手により解除されていたのだから。
ぽと、と地面に落ちるアヤハに向かって駆けだす。ほんの数メートル先なのに足が重くて遠く感じる。
「アヤハちゃん、、!!」
日那の腕の中のアヤハを見て衝撃を受ける。
小さい、、!!先ほどまでの姿とはうって変わって高校生どころか中学生にも見えない。
こんな、、小さい体で、、、今まで戦ってきたわけ、、、、、、?
「お前、、、許さない!!!!!!!」
ハッとして後ろを振り向くと薊がこちらに向けて術を放っていた。
「呪術。双雲昇華!」
薊の手から2つの白い玉が放たれまっすぐこちらに向かってくる。
やばい、逃げなきゃ、、、
コンっ
その時、私の体がグラつく。足元の石に躓いたのが分かった。
「日那!」
コウが私の方に駆けてくる。ダメだよコウ、背を向けたら、、
その一瞬の機会を薊は見逃さなかった。
私の眼にはコウとその後ろに迫る朱い炎が見えた。
「コウ、じゃあな」
「薊、お前、、!」
ああ、どうしよう。私のせいでまた、、、、。コウに手を伸ばすが届くはずもなかった。
「コウ、、、、、!!」
【バン!!!】
何かがぶつかる音がした。
恐る恐る目を開ける。「!!!」
「お外でのおいたは御法度ですよぉ?薊さん♡」
そこに居たのは茶髪の少女。薊の放った双雲昇華を自分の体に吸収していた。
あんなの体に当たったら並みの妖怪じゃ吹き飛ぶくらいなのに、、。それをいとも簡単に、、。
「今日の目的は課外活動であってお外遊びではないんですよ?理解してますかぁ??」
少女は薊を煽るように微笑みながら言う。いや違う、本気で怒ってるみたいだ。
「いや、これは、、、その、、、」
「言い訳とかはいりませんからちゃんと説明してくれます?一級魔妖ですよねぇ、貴方」
薊の顔がだんだん青ざめていくのが分かる。
「あの馬鹿が邪魔したから」
そもそもこの子は何者なんだ??霊力が段違いに強いって以外分からない。
「あー、、、やっべ。」
コウの顔が引きつってる。知ってるのか、この少女を。
コウが状況をよく理解していない私の目線に気づいたのか、
「ああ、あの女の子、ジン先生ね。ガチギレするとああなるの。」と苦笑しながら言った。
「、、、、え?」私はもう一度少女と記憶の中の先生を思い浮かべ比べる。
「えええええーーーーーーー!!??」
美少女もといジン先生はなおも言葉を薊に投げかける。
「はやくしてくれますか。もう結界解いて、学校に戻りたいので。」
「ぼ、僕はあの怨霊を成仏させようと、、。」
ジン先生はふうと深くため息をつくとコウに命令を下した。
「コウさん。1級妖魔の規約暗唱してくださいます?薊さんがたった3つのルールをおぼえていらっしゃらないようなので」
コウはふうと短く息を吐いた。
「第一条、一級妖魔は階級が低いものをイジメてはならない。もし正当な理由がある場合は拘束し、生徒会に必要書類と共に差し出す。第二条、決して悪霊化してはならない。もしそうなった場合はその一族が責任を持って即刻処分し対象者の首を生徒会に捧げる。」
「ええ、合っています。では、最後の項をおねがいします。」
「、、最後に一級妖魔同士での外での諍いはいかなる理由があろうとも決して認めない。感情的になり己の制御が出来ぬ者たちは第三体育館で相応の罰を与えるものとする。、、、、、以上です。」
言い終わった後コウはぽそりと呟いた。
「、、あーやっちゃった。」
コウの暗唱を聞き終わったジン先生は満面の笑みを薊に向けた。
「では、そういうことなので。また後程、第三体育館でお会いしましょうね♡」
「いや、それはちょっとまっ、、!!!」
薊が言い終わる前に術がかかった。
「問答無用です、薊さん。」
地面から金属で出来た大きさがバラバラの糸が蔓のように薊の体を締め上げる。
「あ!薊が捕まってるー」
「それでは皆さん」


