失くしたあなたの物語、ここにあります
今日はもう、誰も来ないだろうか。閉店作業を手伝ってから帰ろうかなと考えていると、扉が開いて男の人が顔を出す。清潔感のある若い男の人だ。
「まだやってますよね?」
彼は店内の様子をうかがうと、ひとりごとのように言い、キッチンから出てきた天草さんに尋ねる。
「うらら……、綿矢うららさんはいますか?」
「どういったご用件ですか?」
穏やかに天草さんは尋ねる。
「ここでバイトしてるって聞いて会いに来たんだけど、いないのかな」
「お知り合いですか?」
「あっ、何か疑われてる?」
笑顔を絶やさないまま淡々と対応する天草さんに違和感を覚えたのか、男の人は苦笑すると、後ろポケットに入っていた財布から名刺を取り出す。
「藤井渚と言います。弟からうららがここにいるって聞いて会いに来たんです」
「弟さん?」
名刺を受け取りながら、天草さんはなおも淡白に尋ねる。
「弟の海がうららの高校の同級生で」
「そうですか。申し訳ありませんが、綿矢はおりません」
うららは今夏、農園でケーキ作りに専念している。彼女がここでアルバイトしているという情報はきっと去年の話だろう。それに気づいた天草さんもいぶかしんでいるのか、うららはいないと突っぱねたようだった。
「いない? おかしいな。……あ、すみません。また弟に聞いて出直します」
「まだやってますよね?」
彼は店内の様子をうかがうと、ひとりごとのように言い、キッチンから出てきた天草さんに尋ねる。
「うらら……、綿矢うららさんはいますか?」
「どういったご用件ですか?」
穏やかに天草さんは尋ねる。
「ここでバイトしてるって聞いて会いに来たんだけど、いないのかな」
「お知り合いですか?」
「あっ、何か疑われてる?」
笑顔を絶やさないまま淡々と対応する天草さんに違和感を覚えたのか、男の人は苦笑すると、後ろポケットに入っていた財布から名刺を取り出す。
「藤井渚と言います。弟からうららがここにいるって聞いて会いに来たんです」
「弟さん?」
名刺を受け取りながら、天草さんはなおも淡白に尋ねる。
「弟の海がうららの高校の同級生で」
「そうですか。申し訳ありませんが、綿矢はおりません」
うららは今夏、農園でケーキ作りに専念している。彼女がここでアルバイトしているという情報はきっと去年の話だろう。それに気づいた天草さんもいぶかしんでいるのか、うららはいないと突っぱねたようだった。
「いない? おかしいな。……あ、すみません。また弟に聞いて出直します」