失くしたあなたの物語、ここにあります
「ぜひ、そうなさってください」

 天草さんはようやく笑顔を見せて、そう言う。

「ここ、前からありましたっけ?」

 にべもない天草さんにひるむ様子もなく、藤井さんが尋ねる。

「去年オープンしました」
「そんなに新しいんだ」

 驚くようにそう言った彼の目線が本棚に止まる。

「本売ってるんですか?」
「古本とハーブティーの店をやらせてもらってます」
「変わった店だね。わかりやすい看板も出てないし、店主さんも……」

 変わり者だと言おうとしたのだろうか、藤井さんは口もとに笑みを浮かべて言葉を飲み込むとカウンターに近づいてくる。

「まだ何か飲めます?」
「ええ。何になさいますか?」
「アイスティーが飲みたいな。急いできたから暑くて。あ、ハーブティーしかないんだっけ?」
「バジルが苦手でなければ、アイスバジルティーはいかがですか? くせがなくて飲みやすいと思います」
「へぇ、そういうのがあるんだ。じゃあ、それで」
「かしこまりました。空いてるお席にどうぞ」

 藤井さんは本棚に興味があるのか、空いてる席を見回すこともなく、沙代子の隣に座る。

 そうして、しばらく本棚に並ぶ古本を眺めていたが、アイスバジルティーが運ばれてくると、カウンターの上に置かれた『ミックス』に気づいて目を丸くした。

「これ、懐かしいな。……あっ、見ていいですか?」
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