失くしたあなたの物語、ここにあります
 沙代子のものだと思ったのか、彼は情報誌に伸ばした手をそのままに、話しかけてきた。

「どうぞ。こちらのお店の商品なんですけど」
「店主さん、この雑誌見させてもらいます。これ、ずいぶん昔のやつだよね。俺、これに載ったことあるんですよ」

 キッチンにいる天草さんに聞こえるように話す彼は、情報誌をぱらぱらとめくり、美容特集を見つけると手をとめた。

「藤井さんが載ってるんですか?」

 キッチンから出てきた彼は、ふんわりと笑んでアイスミルクティーを沙代子に差し出すと、ほんの少し興味深げに藤井さんの手もとをのぞく。

「そう。大学一年のときだったかな。近所の美容師のお姉さんにカットモデル頼まれて載ったんですよ。……ああ、あった。これこれ」

 それは、鶴川にあるいくつかの美容院が特集された記事だった。その中にある美容院のモデルを指差し、彼は苦笑する。

「俺、こんな顔だったかな」
「あんまりお変わりないみたい」

 沙代子ものぞいて、そう言う。

 写真の彼は前髪長めのウルフカットで線が細く若々しいが、今の彼も爽やかな短髪で女性にモテるだろうと思う好青年ぶりだ。

 そのまま視線をずらした沙代子は、藤井さんの写真の隣に見知った顔を見つけた。

「もしかして、隣に載ってる女の子って」
「ああ、うららです。彼女は駅前でスカウトされてカットモデルになったらしいです」
「やっぱり、うららちゃん。天草さん、見て」

 そう言うと、天草さんも雑誌に目を落とす。

「本当だ。全然知らなかったな」
「高1のときだよね。あどけないけど大人っぽくてかわいい」

 ゆるくパーマをかけたおろし髪のうららは、はにかむような笑顔を浮かべていて、普段の彼女とはまた違う華やかさをまとっている。

「うららを知ってるんですね」
「あっ、うん。先日、知り合ったばっかりなんだけど。あなたは昔からの知り合い?」

 尋ねると、藤井さんはにこやかにうなずく。
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