失くしたあなたの物語、ここにあります
「この雑誌がきっかけで。弟がこれにクラスメイトが載ってるって教えてくれて、彼女を知ったんです。そのあと、たまたま弟といるときに駅前で彼女と会って仲良くなったんです」
「それで、今日は会いに来たの?」
「ええ。俺、去年の春から県外に転勤して、お盆休みで今はこっちに戻ってきてるんですよ」

 ということは、まろう堂がオープンした頃は、藤井さんは県外にいたのだろう。まろう堂を知らなくてもふしぎではない。うららがここで働いているという情報も、以前に弟さんから聞いたものだろう。

「うらら、元気にしてますか?」
「ええ、すごく。藤井さんがここにいらしてたこと、伝えましょうか?」
「そうしてもらえると助かります。実は、いつも弟を通じて連絡してたんですが、そういうのもどうかなと思って、今日は直接来てみたんです」

 照れくさそうに笑うから、このまま彼を帰して大丈夫なんだろうかと沙代子は気になって尋ねた。

「こちらには、いつまで?」
「週末には戻ります」
「そうですよね。ちょっと待って。うららちゃんに連絡してみる」

 お盆が明けたら、彼はまたこの街を去るのだろう。そうしたら、次はいつ、うららに会えるかわからない。

 沙代子はバッグからスマートフォンを取り出し、こちらを見ている天草さんに気づく。

「いいかな? 連絡しても」

 不安になって確認すると、天草さんは笑顔でうなずく。大丈夫みたい。

 すぐに沙代子は藤井渚という男の人がうららに会いにまろう堂に来ている旨を知らせるメールを送った。

 今日、うららは友だちと出かけると言って、アルバイトは休みだった。まだ出かけてる最中かもしれない。

 メールに気づいてもらえるか心配だったが、それは杞憂だった。すぐに返信がある。

「近くにいるから、寄ってくれるって」

 そう藤井さんに告げると、彼はあんどしたような笑みを浮かべた。
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