失くしたあなたの物語、ここにあります
うららがまろう堂に姿を見せたのは、閉店時間が過ぎようとしている時刻だった。
彼女は藤井さんの姿を見るなり、少々驚き、全身を眺めるように視線を上下させた。彼女が知る彼は、学生らしさが残る青年なのかもしれないと思う。
「お久しぶりですね。ずいぶん、雰囲気が変わってて驚いちゃった」
沙代子の想像を裏付けるように、彼女は照れくさそうにそう言う。
「お盆休みでこっちに来ててね。元気そうだね」
「渚さんも。今日は私に何か?」
「ああ、うん。明日なんだけどさ、弟が彼女と一緒に遊園地に行くっていうから、うららも一緒に行かないかなって思ってさ」
明日とはまた、急なお誘いだ。うららも曇り顔をする。
「海くんたちと?」
「そう。俺、来週にはあっちに戻らないといけないし、次はいつ会えるかわからないからさ」
「あー……、ごめんなさい。明日はアルバイトがあるんです」
手を合わせて謝る彼女を見て、彼はがっかりと肩を落とす。
「そうだよね。急じゃ困るよな。アルバイトはどこで?」
「実家の近く。農園なので、よかったら、遊びに来てください」
「へえ、農園のバイト? 遊びに行けるなら行くよ。場所、教えてもらえる? っていうか、連絡先が知りたいんだけど、いいかな? 海から連絡してもらうのもどうかなと思うし」
「いいですよー」
うららはあっさり了承すると、藤井さんと連絡先を交換した。彼は心底あんどした様子を見せると、「明日絶対行くから」と言い残して帰っていった。
「急に呼び出して大丈夫だった?」
隣に座るうららに尋ねるが、彼女はカウンターの上の雑誌に気づいて、さっとほおを赤らめた。
「これ、みんなで見てたんですかー?」
「ケーキを見てたら、藤井さんが来て、それで」