失くしたあなたの物語、ここにあります
「あ、ケーキって、おばあちゃんの?」
「うん、そう。それでね、いま、雑誌に載ってたミルクティーを天草さんに作ってもらったの」
「ミルクティーいいなぁ。私も飲みたい」
「作ってくるよ」

 天草さんはそう言って、ふたたびキッチンへ入っていく。

「うららちゃん、さっきのお誘い、断ってよかったの?」

 勝手な想像だが、もしかしたらダブルデートのお誘いだったんじゃないかと沙代子は心配したのだ。

「いいんです。私、海くんが苦手で会いたくないから」

 意外な返事が返ってきた。

「そうなの?」
「優しい渚さんとは全然違って、海くんは空気が読めない嫌なやつなんですよー。海くんのせいで高校生活が台無しになったの、今でも許せなくって」

 穏やかな話じゃない。いつも明るいうららの表情がどこか浮かない。

「何があったの?」
「聞いてくれます? これですよ、これ。この雑誌のせい」

 尋ねていいものか迷ったが、うららは待ってましたとばかりに口を開く。聞いてほしかったみたい。

「雑誌が原因なの?」
「そうです。高校三年のときに、海くんの彼女だったクラスメイトの女の子が、私と海くんのお兄さんが載ってるって雑誌を学校に持ってきたんです」
「話題にしたかったのね」
「そうですよ、面白半分でさらされて。クラスメイトの誰かが、普段の私と全然違うってからかって、恥ずかしくて嫌な思いしたんです。そうしたら海くんが、私の写真見て言ったんです」
「なんて言ったの?」
「……かわいいじゃんって」
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