失くしたあなたの物語、ここにあります



 金曜日、アルバイトを終えると、うららが一度家に戻るというから、カフェで待ち合わせする約束をした沙代子は、帰宅すると着替えを済ませ、ルッカに向かった。

 ルッカは駅前の大通りの目立つ場所にある。観光客も地元の人も訪れるおしゃれなカフェで、満席に近いほど盛況な様子だ。

 約束の時間になっていたが、うららが来る気配はない。先に店内へ入ると、連れがあとから来るからと店員に伝え、窓際の席に腰かけた。

 沙代子はガラス越しにうららの姿を探しつつ、大通りを眺めた。

 お盆の駅前はいつもより賑わっていた。天草農園もまろう堂も、お盆だからといって営業時間を変えるわけではなく、普段通り過ごしているが、世間はいつもと違う様相を見せている。

 大通りの向こう側には、雑居ビルが立ち並んでいる。飲食店や雑貨店など、さまざまなテナントが入るビルの中に、沙代子は『宮寺(みやでら)内科』を見つけた。

 沙代子がまだ小学生のころ、風邪をひくと通っていた小児科内科だ。そして、パートタイムで働く母の職場でもあった。

 宮寺内科はお盆で休みなのだろう。窓にはロールカーテンがおりていて、ひっそりとしている。

「葵さん」

 唐突に呼ばれて、沙代子は驚いて店内へ顔を向けた。ここにいるはずのない青年を見つけて、ますます驚く。

「天草さん、どうしたの?」
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