失くしたあなたの物語、ここにあります
「スペシャルいちごショート、おいしそう」
「うん。一度は食べておくといいと思う。俺はサンドイッチにしようかな。まだお昼食べてなくてさ」
「あっ、うん。食べて。飲み物は?」
「たまにはコーヒーでも飲もうかな。ここのコーヒーもおいしくてさ、銀一さんのお気に入りだったよ。葵さんは?」
「私は……どうしようかな。コーヒーもいいけど、やっぱり、ダージリンティーにする」

 そう言うと、天草さんは店員さんを呼んで注文してくれた。

 男の人とこうしてお茶するなんて久しぶりだ。いつもまろう堂で向かい合っている天草さんとだけど、どこか落ち着かない気分になる。

「食べ終わったら、帰るね。天草さんもまろう堂に戻って大丈夫だから」
「いいよ。もう閉めてきたから」
「でも……」

 そう言いかけるのを遮るように、天草さんはまっすぐこちらを見つめてくると言う。

「気にしてるの?」
「何を?」
「ご近所さんに言われたんだ。銀一さんのお嬢さんと付き合ってるのかって」
「……私がよくまろう堂にいるから?」

 きっとそれだけじゃない。自宅に何度か彼は足を運んでくれているし、彼の運転する車に乗って出かけたりもした。

「困っちゃうよね?」

 そう尋ねてくるのは、天草さんが困ってるからだろう。うららに気持ちを勝手に推測されたのも、いい気持ちではなかったのだろう。
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