失くしたあなたの物語、ここにあります
「何か言われても、違うってちゃんと否定するから大丈夫だよ。妙なうわさ話はあいまいにしない方がいいから」

 沙代子は知っている。一人歩きしたうわさ話が止められなくなることを。それは、真実でもうそでも。

「妙なうわさかぁ」
「うん。だから、天草さんもまた言われたら否定してね」
「俺はかまわないよ」
「かまわないって?」
「誤解されてもかまわない。そう言ったんだ」

 その言葉を理解するよりも先に、沙代子は目をそらしてうつむいた。

「そういう、誤解するようなこと言ってもいけないと思う」
「誤解じゃないよ」

 そうつぶやくと、彼は小さなため息をつく。

 誤解じゃないなら、なんだというのだろう。気になる女の子がいるって話してくれたのは、ついこの間のことだ。

 その女の子に誤解されても、話せばわかってもらえるなんて思ってるなら、彼はうわさ話の無責任さを知らないのだと思う。

「俺、行きたいところがあるんだ」

 黙り込んでいるからか、困った彼はそう言う。

「あ、うん。食べたら行くの?」
「葵さんと一緒に」
「私も?」
「一緒に行きたい場所なんだ」

 拒ませないような目をする彼から今度は目をそらせなくて、沙代子は戸惑いながらもうなずいた。
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