失くしたあなたの物語、ここにあります
懇意にしている設計士の女性に連絡を取ったのは、7月に入ってからだった。別れた恋人との事情を知っていてくれるから、ようやく動き出した沙代子を喜び、必ず成功する店舗を作ろうと意気込んでくれている。
「場所は決まったの?」
「うん。来年には開業できるようにしたいと思ってる」
それは半分本当で、半分は説得するための思いつきだったが、彼は納得したようだった。
「じゃあ、今の話、忘れて。なんか、ごめん」
「ううん。いつも気にかけてくれてありがとう。あ、ねぇ、どこに行くの?」
城下町のメインストリートに足を踏み込む。まろう堂のある通りはそれほど人の流れはなかったが、やはりこちらはお盆休みということもあって、普段よりも人であふれ返っている。
「思い出の場所に行きたいんだ」
天草さんはまぶたを伏せて、ぽつりとつぶやく。
「思い出って?」
「初恋の子と初めて会った場所」
そう言って、うつむけた顔をあげた彼は正面をまっすぐ見つめた。その横顔はどこか思い詰めてるようにも見える。
「……私なんかが一緒に行っていいの?」
「葵さんだから連れていきたいんだ」
「どうして私なの?」
「どうしてだろうね」
ああ、そうだった。天草さんはいつも大事なことははぐらかす。それは、沙代子に踏み込ませたくない思いがあるからだ。彼には彼の事情がある。沙代子がすべてを話せないのと同じように。
「初恋の子が一緒に行ってくれないから?」
重苦しい空気を払拭しようと、茶化すように聞いたら、天草さんはそっと笑う。
「今でも、初恋の子が好きだからだよ」
「場所は決まったの?」
「うん。来年には開業できるようにしたいと思ってる」
それは半分本当で、半分は説得するための思いつきだったが、彼は納得したようだった。
「じゃあ、今の話、忘れて。なんか、ごめん」
「ううん。いつも気にかけてくれてありがとう。あ、ねぇ、どこに行くの?」
城下町のメインストリートに足を踏み込む。まろう堂のある通りはそれほど人の流れはなかったが、やはりこちらはお盆休みということもあって、普段よりも人であふれ返っている。
「思い出の場所に行きたいんだ」
天草さんはまぶたを伏せて、ぽつりとつぶやく。
「思い出って?」
「初恋の子と初めて会った場所」
そう言って、うつむけた顔をあげた彼は正面をまっすぐ見つめた。その横顔はどこか思い詰めてるようにも見える。
「……私なんかが一緒に行っていいの?」
「葵さんだから連れていきたいんだ」
「どうして私なの?」
「どうしてだろうね」
ああ、そうだった。天草さんはいつも大事なことははぐらかす。それは、沙代子に踏み込ませたくない思いがあるからだ。彼には彼の事情がある。沙代子がすべてを話せないのと同じように。
「初恋の子が一緒に行ってくれないから?」
重苦しい空気を払拭しようと、茶化すように聞いたら、天草さんはそっと笑う。
「今でも、初恋の子が好きだからだよ」