失くしたあなたの物語、ここにあります
「この時間ならまだ大丈夫だよ。近くによく行く居酒屋もあるから、食べて帰ろう」
「天草さんは、商店街によく行くの?」
「俺さ、仕事ばっかりでなかなか遠出できないから、商店街のおいしい店は結構知ってるんだよね。まあ、そんなの自慢にもならないし、デートが商店街じゃ、いやだよね」
デート? と、どきりとしたが、恥じ入るように苦笑する天草さんを見ていると、ああ、前にお付き合いしてた人とはよく商店街で会っていたのかなと思う。
「おいしいお店、私にも教えて」
そう言うと、彼は救われたような笑顔を見せて、沙代子を扇動してひと足先に商店街へ入っていく。
すると、突然、天草さんが足を止めるから、沙代子の鼻先が彼の背中にぶつかりそうになる。
「天草さん?」
見上げると、彼は前方を見つめている。その視線の先を追いかけた沙代子は、こちらへ向かって歩いてくる女の人を見つけた。
女の人は買い物帰りのようだった。大きくふくらんだマイバッグを下げている彼女の、上品な身のこなしと人目を引く美貌は、遠くからでもそれが誰であるか気づかせるにはじゅうぶんな華やかさを見せていた。
「あの人……」
ぽつりとつぶやいたとき、天草さんがハッとしたように体を揺らした。同時に、女の人もこちらに気づいて足を止めた。
「行こう、葵さん」
「えっ?」
いきなり、かかとをひるがえす天草さんに驚いて立ち止まっていると、「行こう」と彼はもう一度言って、沙代子の手首をつかむ。
早足で歩く彼についていくのが精一杯で、しばらく沙代子も無言でいたが、まろう堂のある通りに差し掛かったとき、思い切って声をかけた。
「あの人、知ってるの?」
「天草さんは、商店街によく行くの?」
「俺さ、仕事ばっかりでなかなか遠出できないから、商店街のおいしい店は結構知ってるんだよね。まあ、そんなの自慢にもならないし、デートが商店街じゃ、いやだよね」
デート? と、どきりとしたが、恥じ入るように苦笑する天草さんを見ていると、ああ、前にお付き合いしてた人とはよく商店街で会っていたのかなと思う。
「おいしいお店、私にも教えて」
そう言うと、彼は救われたような笑顔を見せて、沙代子を扇動してひと足先に商店街へ入っていく。
すると、突然、天草さんが足を止めるから、沙代子の鼻先が彼の背中にぶつかりそうになる。
「天草さん?」
見上げると、彼は前方を見つめている。その視線の先を追いかけた沙代子は、こちらへ向かって歩いてくる女の人を見つけた。
女の人は買い物帰りのようだった。大きくふくらんだマイバッグを下げている彼女の、上品な身のこなしと人目を引く美貌は、遠くからでもそれが誰であるか気づかせるにはじゅうぶんな華やかさを見せていた。
「あの人……」
ぽつりとつぶやいたとき、天草さんがハッとしたように体を揺らした。同時に、女の人もこちらに気づいて足を止めた。
「行こう、葵さん」
「えっ?」
いきなり、かかとをひるがえす天草さんに驚いて立ち止まっていると、「行こう」と彼はもう一度言って、沙代子の手首をつかむ。
早足で歩く彼についていくのが精一杯で、しばらく沙代子も無言でいたが、まろう堂のある通りに差し掛かったとき、思い切って声をかけた。
「あの人、知ってるの?」