失くしたあなたの物語、ここにあります
明日のお祭りが終わったら、ふたりでどこかに出かけない? って。
しかし、沙代子はすぐに口をつぐんだ。まろう堂の前に悠馬を見つけたからだ。
「あれ、悠馬くん?」
天草さんも気づいて、そう言う。
「悠馬ー、どうしたの? 家にいなかったの?」
沙代子が駆け寄ると、悠馬は首を横に振る。背中にリュックはない。一度は家に帰ったのだろう。
「友だちから明日、映画見ようってメール来たから」
「じゃあ、明日の朝、帰る?」
「そうする」
沙代子はすぐに悠馬がここにいる理由に気づいて、天草さんを振り返る。
「悠馬、今日は本もらいに来たんだって」
「店、開けるよ」
彼は言い出す前にそう言ってくれると、ポケットからキーケースを取り出し、まろう堂の扉を開けた。
「ごめんね」
「いいよ。中に入って、待ってて。荷物、裏口に運んでから行くよ」
天草さんはそう言って、段ボール箱とゴミ袋を軽々持ち上げると通りの角を曲がっていった。
「いつから待ってたの? 寒かったでしょ」
「志貴さんなら明日にしてって言わない気がしたんだ」
「そうね。いい人だもの」
「銀さんはいい人だった?」
急に父の名前を出したりしてどうしたのだろう。
「……どうかな。思い出は優しいものだけど、家族にとってはどうだったんだろうね」
沙代子の知る父も限定的だ。父が亡くなった今はもう、それを知ることはできないだろう。
「姉さんには優しい思い出があるんだ」
悠馬はぽつりとつぶやくと、まろう堂の中へ入っていく。
月明かりを頼りに薄暗い中、カウンター席に腰かける悠馬の隣へ沙代子が腰を下ろすと明かりがついて、天草さんがキッチンから姿を見せた。
しかし、沙代子はすぐに口をつぐんだ。まろう堂の前に悠馬を見つけたからだ。
「あれ、悠馬くん?」
天草さんも気づいて、そう言う。
「悠馬ー、どうしたの? 家にいなかったの?」
沙代子が駆け寄ると、悠馬は首を横に振る。背中にリュックはない。一度は家に帰ったのだろう。
「友だちから明日、映画見ようってメール来たから」
「じゃあ、明日の朝、帰る?」
「そうする」
沙代子はすぐに悠馬がここにいる理由に気づいて、天草さんを振り返る。
「悠馬、今日は本もらいに来たんだって」
「店、開けるよ」
彼は言い出す前にそう言ってくれると、ポケットからキーケースを取り出し、まろう堂の扉を開けた。
「ごめんね」
「いいよ。中に入って、待ってて。荷物、裏口に運んでから行くよ」
天草さんはそう言って、段ボール箱とゴミ袋を軽々持ち上げると通りの角を曲がっていった。
「いつから待ってたの? 寒かったでしょ」
「志貴さんなら明日にしてって言わない気がしたんだ」
「そうね。いい人だもの」
「銀さんはいい人だった?」
急に父の名前を出したりしてどうしたのだろう。
「……どうかな。思い出は優しいものだけど、家族にとってはどうだったんだろうね」
沙代子の知る父も限定的だ。父が亡くなった今はもう、それを知ることはできないだろう。
「姉さんには優しい思い出があるんだ」
悠馬はぽつりとつぶやくと、まろう堂の中へ入っていく。
月明かりを頼りに薄暗い中、カウンター席に腰かける悠馬の隣へ沙代子が腰を下ろすと明かりがついて、天草さんがキッチンから姿を見せた。