失くしたあなたの物語、ここにあります
どちらかというと神経質に物事を考える沙代子にとって、お気楽な母はうらやましいが、同時にあきれてしまう。だけれど、沙代子はきっと母が嫌いではないのだろう。これから先もずっと、こんなふうに付き合っていくのだと思う。
「とにかく、お母さんの心配はいらないからね。沙代子はどうなの? 鶴川で結婚するっていうなら、結婚式にはちゃんと行くわよ」
「いいよ、無理しなくても」
「あなた、結婚する予定あるの?」
「それはないけど」
「結婚したい人ができたら紹介してね。あなたにとっていいお母さんじゃなかったかもしれないけど、お祝いぐらいさせてほしいわ」
「できたらね」
「その言い方だと、当分なさそうね」
「もういい? 帰るから」
話が終わりそうにない。沙代子はため息をついて、苦笑する。
「帰るって、家じゃないの?」
「うん、店にいる。準備が忙しいの」
「遅くまでお疲れさま。また連絡するわね。お母さんは元気だから、心配しないで」
「心配なんてしてないよ」
「あなたも私に似て、素直じゃないわね。そんなふうだと苦労するわ。ここぞというときぐらい、素直にね」
「そうだね」
見透かされてるみたいだ。母はまだ何か話したそうにしていたが、キリがないから電話を切った。
気がそがれてしまった。パソコンを閉じると帰り支度をして裏口を出る。辺りはもう真っ暗で、ひんやりとした空気が満ちている。
二十日通りに出ると、ほの明るい街灯の下に人影が見えて、沙代子はハッと息を飲んだ。
「天草さんっ?」
「遅くまで仕事してるんだね」
マフラーを巻いた天草さんは、白い息を吐きながら笑顔を見せる。
「どうしたの?」
「家に行ったら、まだ帰ってないみたいだったから、こっちにいるかなと思って」
「寒い中、待ってたの? 用事があるなら連絡してくれたらよかったのに」
「葵さんの顔が見たくなっただけだから」
それだけのために?
「とにかく、お母さんの心配はいらないからね。沙代子はどうなの? 鶴川で結婚するっていうなら、結婚式にはちゃんと行くわよ」
「いいよ、無理しなくても」
「あなた、結婚する予定あるの?」
「それはないけど」
「結婚したい人ができたら紹介してね。あなたにとっていいお母さんじゃなかったかもしれないけど、お祝いぐらいさせてほしいわ」
「できたらね」
「その言い方だと、当分なさそうね」
「もういい? 帰るから」
話が終わりそうにない。沙代子はため息をついて、苦笑する。
「帰るって、家じゃないの?」
「うん、店にいる。準備が忙しいの」
「遅くまでお疲れさま。また連絡するわね。お母さんは元気だから、心配しないで」
「心配なんてしてないよ」
「あなたも私に似て、素直じゃないわね。そんなふうだと苦労するわ。ここぞというときぐらい、素直にね」
「そうだね」
見透かされてるみたいだ。母はまだ何か話したそうにしていたが、キリがないから電話を切った。
気がそがれてしまった。パソコンを閉じると帰り支度をして裏口を出る。辺りはもう真っ暗で、ひんやりとした空気が満ちている。
二十日通りに出ると、ほの明るい街灯の下に人影が見えて、沙代子はハッと息を飲んだ。
「天草さんっ?」
「遅くまで仕事してるんだね」
マフラーを巻いた天草さんは、白い息を吐きながら笑顔を見せる。
「どうしたの?」
「家に行ったら、まだ帰ってないみたいだったから、こっちにいるかなと思って」
「寒い中、待ってたの? 用事があるなら連絡してくれたらよかったのに」
「葵さんの顔が見たくなっただけだから」
それだけのために?