失くしたあなたの物語、ここにあります
 志貴は祖母に呼び止められて、銀一さんにあいさつをした。沙代子ちゃんに会うのは初めてと知ると、銀一さんは「娘の沙代子だよ。今、4年生でね」と紹介してくれたが、彼女はちらっとこちらを見たきり、ずっとうつむいていた。六坂神社でさっき会ったよね、と確かめる余地もなく、彼女が志貴を覚えているのかどうかもよくわからなかった。

 あいさつを終えると、家に戻って宿題をやりなさいってお母さんが言ってたわよ、と祖母に言われたが、銀一さんがわからない問題があるなら教えてくれると言うから、急いで家に行き、宿題を持ってカフェに戻った。

 志貴は銀一さんの隣の席に座って、宿題をやるふりをしながら、沙代子ちゃんをちらちらと見た。銀一さんはそんな志貴をおかしそうに見ていたが、何も言わなかった。きっと、彼女にひとめぼれしたことは気づかれていたのだろうが、小学生のささやかで淡い恋なんて、この日限りだと思われていたのだろう。

「お待たせ。銀一さんはマロウブルーのアイスブレンドティー。沙代子ちゃんはマロウブルーカルピスね。マロウブルー自体はあんまり味がないの。うんと甘くしてあるし、全然苦くないから安心してね」

 祖母が運んできたマロウブルーをテーブルに置いた途端、それまでつまらなさそうにしていた沙代子ちゃんが、興味津々になってグラスを眺めた。

 志貴も同じだ。これまで、祖母の作るいろんなハーブティーを飲んだことがあったが、鮮やかな青のハーブティーを見るのは初めてだったのだ。しかも、沙代子ちゃんのマロウブルーは白と青紫の層ができた美しいハーブティーだった。
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