失くしたあなたの物語、ここにあります
「苦くないそうだ。沙代子、少しでいいから飲んでみなさい」

 銀一さんがそう言うと、祖母がおかしそうに目を細める。

「沙代子ちゃんがハーブティー苦手になったのって、優美さんのせいって本当?」

 苦手なんだ? と、意外でもなかったが、志貴は沙代子を見る。それは珍しいことではない。志貴は身近にあったから抵抗がないだけで、友だちからは、何が美味しいんだ、と言われたこともある。

「ああ。優美の淹れたハーブティーがよっぽど苦かったらしい。あれから沙代子がハーブティーは嫌いって言うから、今日は連れてきたんだよ」

 だから、香りを楽しむハーブより、見た目が綺麗なマロウブルーというハーブを選んだのだろう。

「優美さん、昔っから不器用さんだから」
「あれはおっちょこちょいなんだろう」

 銀一さんも笑うと、沙代子ちゃんが初めて口を開く。

「ママはおいしいのにって言ってた」

 どうやら、優美という人は沙代子ちゃんのお母さんらしい。

「優美もいじっぱりだからな、失敗したなんて言いたくなかったんだろう。どうすれば失敗するのか、ふしぎだけどね」

 銀一さんはふたたび笑うと、沙代子ちゃんにストローを渡す。

「さあ、飲んでみなさい。天草さんの作るハーブティーは魔法がかかってるんだから」
「魔法?」

 首をかしげた沙代子ちゃんは、おそるおそるストローでグラスの中をかき混ぜると、そのままぱくりとくわえた。そんなしぐさもかわいい女の子だったが、ひと口飲んで見せた晴れやかな笑顔に、志貴はますますどきどきした。

「おいしいっ」
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