失くしたあなたの物語、ここにあります
 沙代子ちゃんの声も笑顔も、何もかもがかわいらしくて、祖母の作るハーブティーには本当に魔法がかかってるんだ、と、そのときは大真面目に思ったものだった。

 志貴はその夏、ハーブティーの茶葉をたくさん祖母からもらって帰った。

 来年の夏になれば、また沙代子ちゃんに会える。それまでに、上手にハーブティーを淹れられるようになって彼女に飲んでもらいたいと、真剣にそう思うようになっていた。

 中学生になり、志貴はおこづかいで本を買った。『美味しいハーブティーの作り方』というタイトルの本だ。

 家にもハーブティーの関連本はいくつもあったが、母に見せてほしいと言えば、急にどうしたの? と、理由を尋ねられる気がして言い出せなかった。

 こっそり、自分の部屋で何度も本を見ながらハーブティーを淹れてみたが、なかなか祖母の作るような味のハーブティーにはならない。

 これでは次の夏休みまでに間に合わない。そう焦っていた夏休み直前、志貴は熱を出して、農園の手伝いに出かける両親を、父方の祖父母の家で見送ることになった。

 それでも志貴はめげなかった。熱がさがると、精力的に祖父母相手にハーブティーを淹れ、飲んでもらった。穏やかで優しい祖父母は、おいしいよ、となんでも飲んでくれたが、手ごたえがない。

 志貴が目指しているのは、飲んだ瞬間になんとも言えない表情で見せる、あの笑顔だ。

 躍起になっている志貴に、ある日、祖母が「お水じゃないかしらね」と言った。

「水?」
「きっと、鶴川のお水。名水だって有名でしょう。お母さんにお水を持って帰ってきてってお願いしてみたら?」
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