繋いだ手は離さない
「……」


 何気ない時間が訪れ、ボクは愛理香の横に座り、自分の肩を凭(もた)せ掛ける。


 互いに肩を寄せ合い、並んで座った。


 ただそれだけで、ボクたちは十分幸せを感じ取れていた。
 

 そう、ホントに何もない普通の時間だ。


 ボクたちは若いカップル同士にしては十分すぎるぐらい十分に分かり合えていた。


 それはお互い譲るところは譲って、余計なことには一切気を回さないという方法で得た理解の仕方だった。


 こんなことは恋愛の達人と呼ばれる人が書いたハウツー本にも載ってない。


 一対の男女として付き合っていく上で、自然と分かっていくことなのだ。


 ボクも愛理香もそれを体得するうちに、成熟にはまだ早すぎるものの、大人の恋愛が分かってきつつある。


 半袖シャツのボクは脇下に薄っすらと汗を掻いていた。


 それが付けていたデオドラントと混じって、辺りに漂う。
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