《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を甘く蕩かす〜やり直しの求愛は拒否します!
「本当に、いいの?」
「いいも何も、初めからそのつもりだ。この先あなた以外の女に触れる事は無いし、触れたいとも思わない」

 喜びと緊張とで肩を揺らせば、ふるんと豊かな胸元も揺れる。
 レオヴァルトは片方の手でユフィリアの両手を器用に寝台に押し付けると、もう片方の手で胸を寝衣の上から押し上げた。柔らかな胸の膨らみが、レオヴァルトの手でふにふにと形を変える。

「ユフィリアのここは柔らかいのだな。想像以上だ」
「じょ、女性の胸なんてみんなおんなじよ……っ」

 くっ、ふっ……。
 ぎゅっと硬く目を瞑って浅く呼吸を繰り返す。ユフィリアとて、こういう事は生まれて初めてなのだ。
 好きな男が、自分の胸に触れている。
 恥辱と幸福とがないまぜになった、複雑で濃密な感覚が、とろりと脳髄を満たしていく。

「まって……」

 柔らかな胸を大きくて堅い手のひらで押し潰されている。自分のものとは思えない声が漏れてしまって我ながらひどく驚いた。

「……ゃ、ぁっ」
「その声は唆《そそ》るな」
「言わないで、恥ずかしい……からっ」

 レオヴァルトの伏目がちな睫毛がユフィリアの顔面に近づいてきて、口付けをされるのだと思った。反射的に、逃げるように顎を引いてしまう。
 すると、唇が重なる寸でのところで形良い唇がすうっと離れていった。

「……聞きたいのだが」

 艶のある冷静な声に驚いて、薄く目を開ける。
 てっきりこのまま《婚礼式以来の》口付けを交わすのだと覚悟したのだ。なのに寸止めだなんて、どういう事だろう。
 
 ──今も口付けを嫌がってるって、思われたのかな……。

 婚礼式は、確かに最悪だった。
 形式的なものではあったものの、顔を合わせた時の険悪な空気を引き摺ったままの口付けは拷問にも等しかった。それはユフィリアのみならず、レオヴァルトもそうだったはずだ。
 けれど、互いを認め合うことができた今なら……そう思ったのに。

「聖女《ユフィリア》の神聖力《グラシア》の巨大化とは、《この程度の行為》では成し得ないのだろうか」

 予想外の質問に蒼色の瞳をとうとう見開いた。
 逞しい両腕が寂しさの尾を引きながら離れて、拘束されていた身体が解放される。
 見れば、レオヴァルトは何故だか落胆したように額に手を当て、項垂れていた。
 
「れっ、レオ……?」




 
 
< 13 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop