《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を甘く蕩かす〜やり直しの求愛は拒否します!
 胸元を掻き抱いて夫を見上げるが、蜂蜜色の瞳は意図してユフィリアから目を逸れせる。

「触れてしまってすまなかった。あなたを抱くことは無いと言ったのに、不覚にも邪念に溺れた私を許して欲しい」
「邪念だなんて、そんな……っ。だって私が許したんだもん、レオが謝る事じゃない」
「身体に触れられて、怖かったろう?」

 少しも怖くなかったと言えば嘘になる。
 けれどその怖さは戦場で味わう恐怖心や、レオヴァルト以外の男に触れられる恐ろしさとは全く違うものだ。秘密の扉を初めて開くような……畏怖に近い恐れだ。

「うっ、ううん、平気よ……? だから……っ」

 そんなに悲しそうな顔をしないで欲しいと、ユフィリアも泣きたいような気持ちになってしまう。

「ねぇ、レオ……」

 手を伸ばして、斜め後ろに視線を向けてしまったレオヴァルトの頬を両手で包み、こちらを向かせる。目の前の美丈夫は長身なので、自然と彼を見上げるような格好になった。
 ユフィリアは目を細めて若草色の瞳を潤ませる。
 レオヴァルトが《こんな自分》を、どれほどに気遣い労わってくれているのか、痛いほどに知っていた。

「レオは気遣って、私が傷つくんじゃないかって黙っててくれたんだろうけど……私、理解《わか》ってるんだよ? 今の私の神聖力《ちから》じゃとても足りないって。このままじゃ力不足で、アルハンメルを勝利に導くことは出来ないって」

「ッ…………」

「私は聖女として軍神レオヴァルトの片腕になるべく、このアルハンメルに召された。戦場に赴き、あなたと一緒に国のために戦う……あなたは魔力、私は治癒という力で。でも大国アルハンメルの兵力は想像以上に大きくて、私には歯が立たない……数多の救える命があったのに、失わせてしまった。どんな時でもレオは私を守ってくれようとする。グラシアの力が足りない私をいつも気遣って……。今のままじゃレオの片腕どころか、足手纏いになってるだけだって」

 見開かれた黄金の瞳は、物哀しい色を帯びたままだ。




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