《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を甘く蕩かす〜やり直しの求愛は拒否します!

 必死で唇を動かそうとするけれど、どうしても声が出せない。なのに記憶の中の少女ユフィリアはしっかりと口元を動かして、自分の主張を訴えている。

『……そうね、その通りよ。でもねユフィ、あなたはグラシアという聖なる力を授かった。あなたが思う以上にこれは素晴らしいことなの。あなたの力で誰かの苦しみを和らげたり、笑顔を取り戻してあげられるの……ねっ、すごく特別なことだと思わない?』

 記憶の中でぎゅっと引き結ばれていた少女ユフィリアの口元が僅かに緩んだ。
 それでもまだ納得がいかないようで、聖女の面差しから目を逸らせてそっぽを向いてしまう。

 美しい筆頭聖女──ステラは、そんなユフィリアの前髪を優しく指先で梳くと、鈴が鳴るような澄んだ声で言葉を繋げた。

『もちろん簡単なことばかりじゃないし、グラシアを使えば自分自身が苦しくなることもあるかもしれない。けれど救う側も救われる側も心が温かくなる瞬間があって、みんなで神様からの尊い贈り物を分け合っていると思うと優しい気持ちになれるの』

 聖都に来たばかりの頃は、自分に与えられた《聖女》たる役割を理解できなかった。わけもわからずグラシアを安定させるための鍛錬を強いられることに嫌気が差したユフィリアに、人を救うことの意味深さを教えてくれたのが彼女だった。



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