《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を甘く蕩かす〜やり直しの求愛は拒否します!
「ちょっと、変なとこ触んなっ、この馬鹿、カス! 放せ、放せってば……!」
 
 アルハンメル軍に背を向けて馬を走らせるのは、敵国ランガンの巨体の騎士。その片腕に抱えられ、戦慄の戦場にはおおよそ似つかわしくない《《ひ弱》》そうな女が、聖衣から飛び出した手足をしこたまバタつかせている。

「夫にも指一本触れさせたこと無いんだぞ?! 変態!! 魔物に喰われろ、このバカデカカボチャっっ」

 あらゆる悪態をついて身体をくねらせるものの、大木のような敵兵はものともしない。むしろ呆れた顔をしている。

「やたら下品な女だな……お前ほんとに大陸に名を馳せる大聖女ユフィリア本人か?」
「あほ! 私の活躍を見てなかったの……ってどうでもいいけど、私をどこに連れてく気? とっとと離せ! 解放しろ! 死にたいのかっ」
「気張ってられるのも今のうちだ、お嬢ちゃん。なにせ意識低下を促す媚薬を嗅がせたからなぁ。すぐに効いてくると思うぜ?」
「お嬢ちゃん言うな! れっきとした成人女性だ、十八歳だ! お嬢様と呼べーっ」

 じたばた、じたばた。
 そんな危機に直面していても、ユフィリアの声色にはまだ余裕があった。
 その理由は彼女自身も心得ている、何故なら。

「一応、忠告はしたよ? あんたなんか、どうなったって知らないんだからっ」
「フハハ! 怖いのか? 震えているな。じゃじゃ馬聖女が可愛いじゃないか。将軍様の手にかかる前に可愛がってやるよ。アルハンメルの第二王子に嫁ぎながら生娘だと言う噂は嘘くさいが、真偽の程は今夜じっくり確かめてやろう、ウ……ン…………ッッ」
 
 ──シュッ

 と、ユフィリアの頭上で何かが擦れるような音がした。
 見れば馬の前方に向かって黄金の光が真一文字に伸びている。

 ドッ、と鈍い音が続く。一瞬の間があった。




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